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人事部というところは、一般に"保守的"なところである。これまでの慣習やしきたりを守ろうとする。それに合うように社員を育てたいと思うものである。"異端者"が少数である間は、それも可能だった。しかし、"異端者"がマスとなり、潮流となれば、もはや防ぎようはない。それでも従順な性格の人を選んで入れて体制を維持しようとするならば、その会社が衰退していくことは目にみえている。
聖書の中の福音書の話に、イエスが「新しいぶどう酒を古い皮袋に入れる者はいない」と説教するくだりがある。新しいぶどう酒はまだ醗酵が進むので、古い皮袋を破ってしまうということをたとえに、旧来の体制に自分が唱える新しい考えは入れられないと語ったものである。
若者たちは、新しいぶどう酒だ。熟成は十分でないが、これから醗酵していく存在である。それを古い体制に閉じ込めておくことは、やがて袋が裂けてしまう恐れがある。
逆説的だが、たとえそれが未熟な考えからでも、辞めたいという社員が自由に転職や独立ができるという環境をつくることが、辞めさせなくする手段になっていくように思う。そのような自由な環境を望んで、優秀な人材が入ってくる可能性は高まるだろう。
大事なことは、突然辞めるといわれても困らないような仕事の体制をつくることである。欧米にあってなぜかわが国企業になじまないのが「ジョブ・ディスクリプション(職務規定)」である。欧米では、採用の時、一人一人に詳細に担当する仕事について明記したジョブ・ディスクリプションが渡される。その人が辞めて仕事に穴があいたら、その仕事ができる別の人を採用すればよい。いわば部品交換のようなものだが、部品には明確な規格が定められているから、すぐに取替えができ、機械の運転には支障は起きない。
こうした人材を"部品化"して考えるアメリカ流の経営には違和感があり、間違っているかもしれない。しかし、これも転職が激しいためにできた制度だということも考えておく必要があろう。
日本の企業は「大学新卒」が大好きだ。中途採用もずいぶんと増えているが、やはり新人を求める。それは、企業として刷り込みが可能だからだ。生まれたばかりのひなが、初めて見る動くものを親鳥と勘違いして育つように、無垢な新人はその会社のやり方に染めるのが簡単だからである。だから、大事な社員が転職するリスクが少ない。
しかし、大卒新人が無垢ではなくなった。染まるのを拒む撥水コーティングが施されたいま、こうした新人への安易な刷り込みの期待は捨てるべき時がきているのではないだろうか。
会社が必要としている人材とは何なのかを考えなければならない。いまは古い価値観と従来の体制で育った人たちが管理職におり、新しい人たちとの間にギャップが生じて、そのギャップに苦しんでいるが、やがて"若い世代"がほとんどの管理職の座を占める時代がくる。一枚岩になってしまえば問題は解消する。一枚岩になるのは、あと10年か20年後である。
■平田周 氏プロフィール
三田教育研究所首席研究員
どうしたら若い人たちの知力、思考力、英語力を高めることができるかを研究しています。大企業、外資系企業、中小企業などでの勤務、ベンチャーの立ち上げ、大学で教鞭など、さまざまな体験をしてきました。元東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科客員教授。専攻:国際情報論。
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