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デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部 教授 匠英一(
プロフィール
)
■子どもと大人の経験時間の認識の違いはどこから来るか?
今回は認識の枠組みともなる「メンタルモデル」について考えてみましょう。
母親が小さな幼児を連れて、「何してるの、さっさとしなさい!」と言って叱っている場面がありますね。どうも、大人になると子どものやることが遅く感じることが多くなるようです。時間は誰にとっても平等に与えられているものですが、人は心理的時間を持っており、夢中のときは短く、退屈なときは長く時間を感じます。これは大人も子どもも違いはありません。
ここまでは常識的にわかることですが、年を経るにつれて、時間が短くなったと感じるようになることについてはどうでしょうか? 母親が35歳で幼児が5歳だとすれば、母親はおそらく幼児の半分以下の時間感覚なのですね。大人になった自分が、幼い頃を振り返ってみても、小学生時代の1日というのは、今よりずっと長い時間だったように感じるはずです。つまり、体の大きさや生きた年数と時間感覚は反比例すると言えそうです。
■時間の「メンタルモデル」の例からわかること
この時間の認識の歪みは、年齢と関係しているメンタルモデルが働いているからだと考えると、たとえば、次の事例も納得されるはずです。
山田洋次監督が語っているのですが、「男はつらいよ」の撮影で、寅さんを演じる渥美清さんが50代になったころから、ストーリ展開は同じでも、録画時間が長くなることに気づいたと言います。役者たちが年をとって時間感覚が変わり、動きがスローになっていたのです。
一般的には、体が大きいものや年長まで生きる生物は、それと逆の性質の動物よりも時間が短く感じられるのですね。このため、山田監督は若手の役者を起用するなどして上映時間を短縮する工夫をしたといいます。
こうしたことをサービス改善に応用すると、時間消費型の教育などでは、小学生の1時間の講習は大人の2時間に相当するので、休憩の取り方も小刻みにすることが必要だとわかります。大人と子どもの時間のメンタルモデルの違いを考慮したサービス経験を与えることが大事だからです。
■「メンタルモデル」を生みだす「メタファー」とは?
本人はメンタルモデルを自覚していないことにも注意が必要です。というのも、メンタルモデルは、普段は気づかない「心理的な枠組み」だからです。時間のほかにも、比喩的な形の「メタファー」で表現をすることで「原因─結果」を理解しているケースもあります。
たとえば、悲しいことや嫌なことがあったとき、「気分が落ち込む」と言いますが、「落ち込む」というのは、本来、上から下に落下することを意味する言葉です。もちろん、「気分が落ち込む」というのは、「気分」というものが物理的に落下するのではないはずです。
では、どうしてこのようなメタファー(比喩)を用いるのでしょうか?
それはメタファーが身体的な“経験”を基盤にして作られることが多いと考えられるからです。もしも、無重力の宇宙で育った人が、はじめて「気分が落ち込む」という言葉を聞いたとき、「落ち込むというのは下にいくことだ」と説明しても、それは原体験がないために理解できないでしょう。地球には重力があり、飛び上がったり落ちたりする身体的な経験がベースにあるために、人間は気持ちの浮き沈みを身体の上下の動きに喩えて説明できるというわけです。
認知言語学者のJ・レイコフは、こうした言語の中のメタファーの構造を研究し、そこにメンタルモデルの原型ともなるパターンを数多く発見しています。次回は、顧客のメンタルモデルを検討してみましょう。
■匠 英一(Eiichi Takumi)プロフィール
デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部:教授
和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。
90年より(株)認知科学研究所を創立。95年より中堅IT企業に入社し、インターネット活用の企画営業や顧客管理(CRM)のコンサルに従事。これまで11の異業種団体や資格団体を創設。公的な役職として、中央職業能力開発協会OA検定中央委員、CRM協議会理事・事務局長、早稲田大学客員研究員など歴任。
現在は上記大学の教授職を兼務しながら、(株)人財ラボ(上席研究員)と(株)ミリオネット(非常勤取締役)などで顧客サービス発想法、eラーニング、CRMシステムのコンサル業務に従事。
著書には、「顧客見える化」、「心理マーケティング」、「CRM入門」訳、「カスタマーマーケティングメソッド」訳、「意識のしくみを科学する」、「イラストでわかる心理学入門」等多数あり。
E-mail:
takuei@netlaputa.ne.jp
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