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特集2:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(1)

 
●事例

 ある会社の中堅人材のAくんが開発プロジェクトでサブチーフを担当した。その際、PMを担当したのは、Bという男であった。B氏の評判は、“話を聞かない人”であった。Aが設計方針などを相談しても、Bは自分の考えた内容を指示するだけのワンマンな男である。これだけでもAくんのやる気は下がったが、最も嫌だったのはプロジェクト上の問題を報告するときだった。B氏はこのような報告に不機嫌となり、Aくんを責めることが多かった。このようなことが繰り返されたので、AくんはB氏と話すのを嫌がり、コミュニケーションは不足していた。

 あるとき、Aくんのチームで大きな問題が発生した。Aくんは気が重かったがB氏に相談することにした。

Aくん:Bさん、少し時間をいただいてよろしいでしょうか・・・
B氏:悪い報告なら聞きたくないよ。
Aくん:ユーザの要件を間違って捉えていたようで、機能が足りないものがあります。追加設計が必要になるので許可してもらえませんか・・・
Bさん:しっかりしてくれよ。お前だけで解決できるよな。
Aくん:SEが足りないので、他チームからまわしてもらいたいのですが・・
B氏:お前が調整したらいいだろう。できるよな?
Aさん:いえ、他のチームも仕様ミスでいろいろあるみたいで・・・
B氏:できるのかできないのか結論だけでいい。
Aくん:・・なんとかしてきます。
B氏:俺はお前らに任せているんだ。お前が責任をもって解決しろ。


 中堅のAくんには解決できる能力がなく、抱え込んでしまうことになった。問題が解決されないまま、他のチームでも同じような要件把握ミスや設計ミスが頻発し、プロジェクトは大パニックになった。プロジェクト内コミュニケーションが不足していたため、各チームで要件認識や設計方針のずれが数多く発生したためである。このような状態になると、部分的な修正では修復できない。要件定義や設計をやり直さなければならない状況になってしまった。

●メンバーとB氏の認識違い

 この会社では、プロジェクト崩れの原因調査(関係者へのヒアリング)を行うことにした。プロジェクトメンバーは全員、プロジェクトがうまくいかなかったのは“B氏の責任”と考えたが、B氏は“メンバーの能力不足”と主張した。

 本来、失敗は関係者全員の認識一致があって初めて改善できるのだが、このケースでは、B氏のみ“問題はメンバーにある”とし、認識が一致しなかった。そこでもめた挙句、メンバーの大半がB氏をプロジェクトから降ろはずすことにで意見一致したのだが、B氏はおさまらない。B氏を何度も説得したが、「部下が悪い、力がないからこうなった」と主張し続ける。降ろすほうも客観的な尺度がないため難航し、プロジェクトが正常化するにはかなりの時間がかかってしまった。

●管理者は常に自分の能力を疑え

 この事例のB氏はあまりにも問題がある人物だと思われるかもしれないが、程度の差はあるものの“管理者には多かれ少なかれ不適切な行動がある”というのが筆者の実感である。つまり、管理者の能力不足がプロジェクトを崩すが、本人にはその自覚がない。これは非常に危険なことだと思う。管理者に起用される人材は成功体験も多く、押しが強く失敗を嫌う傾向が強い。したがって、“自分の非は認めなくない”という強い意識がある。このため、自分が悪くないのなら“他人が悪い”と思い込む。その他人とは、管理者からみて弱い立場の部下に向かってしまう。部下は面と向かって上司が悪いといえないので、ますます部下を責め、部下のモラールを低下させてしまうのである。

 当然、すべての管理者がこのような稚拙な行動をとることはないが、注意しないと誰でもこのような行動をとってしまい、プロジェクトを失敗させるリスクがあるといえよう。

 では、これを避けるためにどうすればよいか。それは“管理者は常に自分の能力を疑う”ということだ。管理者は常に自分のヒューマン・マネジメントスキルのレベルを自覚し、うまく他人をコントロールしなければならないというのが筆者の自論である。では、どのようなことに気をつければよいのか、次回以降はこれらについて紹介したい。


 
■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net
連絡先 : clinic@a-ron.net
 
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