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パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント
奥村幸治(
プロフィール
)
こころの理論
発達心理学における研究で、乳幼児に鏡を見せて、そこに映った自分にどのような反応を示すかという自己鏡映像認知の実験があります。通常、生後 5,6 か月頃になると、赤ちゃんは鏡に映し出された自己像に興味を示し始め、 1 歳前後までは鏡の自己像に触れようとします。やがて、鏡の映像が実物ではないことが認知できるようになり、
1 歳半頃には自己像を自分の分身であるかのように見立ててそれと遊ぶようになります。 2 歳を越えると、鏡に映し出された像が自分の姿であることを理解して、最終的に自己鏡映像認知が成立します。
これとは異なる実験で、「サリーとアンの課題」( Frith, 1989 )と呼ばれるものがあります。この実験を簡単に説明すると次のような内容になります。
登場人物はサリーとアンで、サリーにはカゴを、アンにはハコが与えられています。サリーはビー玉を持ってきて自分のカゴに入れ、散歩に出かけました。アンはカゴからビー玉を取り出して自分のハコに入れます。サリーは散歩から戻り、自分のビー玉で遊ぼうと思ったときに、ビー玉をどこで探すでしょうかという課題に対して 3 つの質問を幼児にします。
(1)ビー玉は本当はどこにあるか。
(2)前にはそれはどこにあったか。
(3)サリーはどこを探すと思うか。
質問(1)(2)は状況理解と記憶力に関する質問ですが、(3)の質問は幼児にサリーの考えを推量できるかどうかを問う内容になっています。実験の結果から、この質問で「サリーはカゴを探す」と答えることができるようになるのは、健常児では 4 歳頃だと分かっています。
この実験を IQ や言語能力のレベルをほぼ等しくして 5,6 歳の自閉症児、健常児、ダウン症児を対象に実施すると、どのグループの子どもも最初の 2 つの質問に正しく答えたのですが、自閉症児のグループのみ最後の質問に誤った答えをしてしまいました。このことから、自閉症児は、他者の考えを推量する働きに障害のあることが推測できます。
これら 2 つの実験から分かることは、人は自己認識と他者認識ができるまでに、発達上、数年かかるということです。心理学では、人や動物が他者の「こころ」の状態(目的、思考、意図、信念など)を理解し推量する働きを「こころの理論」と呼んでいます。これまでの研究から、他者の「こころ」を理解する働きには、脳の左前頭野が関わっていることが判明しています。前頭葉は、注意や関心などの情緒機能を含む精神運動作業、人格と関連のある自我機能をつかさどる部分です。「サリーとアンの課題」の中で、アンがサリーのビー玉を自分のハコの中に入れた事実を心に浮かべる働きは一次表象作用と呼ばれ、自分や他者が一次表象作用をもっていることを思えることを二次表象作用と呼ばれています。自己を振り返り、自分が今何を考えているか、他者が何を思っているのかを客観的に思考できることをメタ認知( Meta[ 超える ] )またはメタ表象作用と呼びます。
会話の中で、『あの人は物分りがよい』とか『よく分かっていらっしゃる』ということを耳にします。このようなときに表される「分かる」は、事実の理解だけではなく「相手の考えや気持ち、または、こころの動き」の把握も含まれているのではないでしょうか。単に静止状態のものを把握する力とは別の働きです。
参考文献
『心理学』 [ 第 2 版 ] 鹿取廣人、杉本敏夫( 編者)東京大学出版会
Frith, U. ( 1989 )
Autism
: Explaining the enigma . Basil Blackwell.
■奥村幸治 氏プロフィール
パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント 人材開発に関わるコンサルタント、アセスメント、トレーニング、コーチングに携わる。ブリガムヤング大学カウンセリング心理学博士課程終了。心理学博士。NPO国際ボンディング協会理事。さめじまボンディングクリニックカウンセラー
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