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特集4:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(16)
 ●「論理一貫」の難しさ

 分かりやすく順を追って説明しよう。公の場で、利害が異なる5人がそれぞれ自分のスタンスや立場であなたに主張をしたとしよう。まず、最初に理解しておくべき制約は、「公の場では、自分で言ったことを簡単に覆すことができない。」ということである。なぜなら、公の場で度々発言を覆す人は、論理が一貫しない、能力のあまり高くない人間だと見なされてしまうからである。こうなれば、マネージャーとしての信用は低下していき、そのうち誰もあなたの言うことを聞かなくなる。
 こんなことにならないためにも、公の場で、自説をコロコロ変更することは避けるべきだろう。
 5人が順番に主張を行い、あなたに回答を求めたとする。この場合のあなたの辛さを考えてほしい。一番辛いのは、「あなたは、1人目に言ったことを2人目に対応するときに覆せない」ということである。つまり、2人目には、1人目に言ったことと矛盾しないことを必ず言わなくてはならないのだ。そして、3人目には、1人目と2人目と整合性を取り、4人目には1人目〜3人目、そして5人目には、1人目〜4人目に言ったことと矛盾しない論理を分かりやすく説明しなければならない。しかし、準備も何もしていない場合、こんなことがいつもいつも綺麗にできるわけがない。
 仮に、それができるとすれば、相手の主張が簡単な、複雑でない会話のケースである。しかし、実際には質問と回答を繰り返し会話は複雑になる。その間に、あなたはいくつもの主張と反論をする。5人と複雑な会話を続けてた場合、その全ての会話内容を覚えておくことはまず不可能である。この結果、主張や回答はそれまでのものと矛盾を起こし、それを相手に指摘され、支離滅裂な反論をする可能性がある。そのような行動をしてしまえば簡単には信頼を取り戻すことは難しい、「能力が低い」という悪い評価になってしまうのである。
 
 ●事例で確認しよう。

 少し分かりにくいかも知れないので、具体的に考えてみよう。

Aさん: 改造はしていただけるのですね。
あなた: いえ、改造はしません。
Dさん: しかし、業務ができないなら改造はすべきでは? 業務ができなくてもよいのでしょうか?
あなた: いえ、業務ができなくてもよいとは言っておりません。
Dさん: では、改造もできる場合があるということですか?
あなた: ケースバイケースです。
Fさん: それはおかしいのではないでしょうか? 改造するほどコストがかかり、システム統合のメリットがなくなっていきます。それでは、このスキームの意味がなくなります。改造すべきではありません。
あなた: それはその通りです。
Aさん: でも、改造はケースバイケースだと言ったじゃないですか!
あなた: それは……。
全員: どっちなのですか!はっきりしてください!

 この会話での「あなた」の苦しさが分かるだろうか。咄嗟にこんな会話に入っていったら、誰でも回答に窮するだろう。だから準備が必要なのだ。
 次回は、どのような準備が必要なのかを説明する。


■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net/
ブログ : http://d.hatena.ne.jp/officearon/
連絡先 : clinic@a-ron.net

 
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