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特集4:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(14)
 ●参加者たちのジレンマ

 そもそも、システム統合するのは、A〜D社がそれぞれシステムを作るコスト、維持するコストを削減したいからである。それなのに、カスタマイズをしていたらコスト削減にはならない。ここに参加者たちのジレンマがあり、複雑な人間模様が出現する。
 カスタマイズを拒むのは、A社のシステム部門とこの統合を企画した上層部である。A社のシステム部門が拒むのは、カスタマイズはA社のエンジニアが行う必要があるからだ。残るのはA社のシステムであり、A社のシステムを改造(カスタマイズ)できるのはA社のシステム部門だけである。B〜D社の個別機能をカスタマイズすれば膨大な作業量になる。A社のシステム部門から見れば、そんな大作業をする余裕はない。
 さらに言えば、A社のシステム部門は、B〜D社の個別機能の内容を知っていない。知らない機能を作りこむのは時間がかかるし、自信がない。だからカスタマイズを拒むのである。
 また、カスタマイズを拒む勢力は他にもいる。コストを増やしたくない人たちであり、統合を決め、推進するA社〜D社の企画マンやプロジェクト管理者たちだ。彼らは、余計なコストを支出する気がまったくないのである。ただし、B社〜D社の企画マンは、システム統合後に、自分たちの会社の業務ができなくなると困るので、最低限のカスタマイズはすべきと思っている。しかし、コスト増は断固として反対する。非常に都合のよい人たちだ。
 結局、コストも気にせずカスタマイズしたいのは、B〜Dの業務担当者たちである。彼らから見れば、業務が変わったり、場合によっては、不要人材としてリストラされるかも知れないから必死である。
 
 ●各立場の人間たちのニーズと考え

 A社の業務や顧客向けサービスとそれを管理するシステムだけが残れば、B〜D社の業務人材は基本的には不要になる。こんな理由から、B〜D社の業務担当人材は必死で抵抗するのである。
 このように考えると、このシステム統合の参加者のニーズは以下のとおりとなる。

(1)A社のシステム部門
 カスタマイズはしたくない。カスタマイズは断固断るつもりである。
(2)統合プロジェクトを担当するプロジェクトマネージャ(A社)
 カスタマイズはしたくない。コストを増やしたくない。スケジュールは遅延したくないと思っている。
(3)B〜D社の企画担当
 業務ができなくなるかも知れないので、カスタマイズは必要かも知れないと思っている。でも、コストは増やせない。
(4)B〜D社の業務担当
 カスタマイズは必須。断固してほしいと思っている。


 このような複雑な関係になる。このような人間模様でプロジェクトマネージャになると大変である。
 と言っている筆者は、どの立場であったか? そう、筆者はこの大変な(2)A社のプロジェクトマネージャだったのだ。
 次回は、筆者がどのようにヒューマン・マネジメントの戦略を考えたのかを説明する。


■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net/
ブログ : http://d.hatena.ne.jp/officearon/
連絡先 : clinic@a-ron.net

 
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