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特集4:顧客志向の次世代マーケティング ”顧客見える化”の視点から XII 「見える化」の量と質の分析と「顧客ライフサイクル」
デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部 教授 匠英一(プロフィール
 筆者はコンタクトレンズをしていますが、どうも最近は近くを見るときに困ります。見え過ぎるレンズを使うほど、逆に近くの小さな文字など見えなくなってしまうのです。
 分析には最適なレベルがあるということですが、見える化も実は何をどこまで見えるようにするかが問われるわけです。それは「顧客見える化」の"量"と"質"と言い換えることができますが、今回はこの問題を「顧客ライフサイクル」の視点と合わせて検討してみましょう。

■顧客見える化の"量"と"質"の問題

 最近は顧客のクレームなど膨大なデータがコールセンターなどに入り、それはデータベース化されて商品の改善に活用される活動も盛んです。ところが、この蓄積されたデータを分析し、活用しているかというと実際には活用していない企業が多いのです。
 テキストマイニングのソフトで分析することは確かにできますが、ただ仮説もなく分析していても役に立つ情報は得られません。購買データなどをデータウェアハウスで収集・管理した場合、そのままでは分析できないほどの量となるからです。しかも数を制限しなくてはコストがかかりすぎるため、量の制約条件がかなりあるわけです。
 では、そのバランスを考慮したうえで、どのくらいの量が分析では必要でしょうか?たとえば、10万件の文書データを全てテキストマイニングするといったとき、それはかなり大変な作業となるはずですが、失敗しているところでは量さえあればイイ結果が出せるかのように思いこんでいるようです。

■量より質を重視せよ

 このような場合、まずは"質"を重視した方がよいといえます。「何を」という"質"が明確にできれば、"量"の基準もハッキリしてくるからです。ここでいう"質"とは、仮説的な基準によって分類できる判断のめやすと云えます。たとえば、クレーム客などの分析ならば、「離反客見える化」の質として次のような離反客についての「4つの進化段階」という仮説を立ててみるわけです。
       @離反客 ⇒ A損失客 ⇒ Bクレーム客 ⇒ Cテロリスト客
 同じような離反客であっても、直接に損失を与える段階ではないような既存客があり、損失となるのはDMを発行しても来ないことが明確になるような段階で「損失客」と定義できます。そして、なぜかという理由は言わないのは普通ですが、それを営業担当がたまたま訪問してクレームを受けた段階でわかる客が「クレーム客」。そして、さらに回りに悪い口コミをし始めたときには「テロリスト客」となるというように区分できます。
 この4段階に分ける仮説を持つことで、すべてのデータを量的な分析をせずに、まずテロリスト的な客層に焦点を当てた形で質の検討ができます。このケースでの優先順位は、テロリスト客を早期に発見して対策をとることです。そのうえで、全体としての離反客を中長期的な視点で減らすようにしていくことです。

■「顧客ライフサイクル」を基準とした見える化の質と量の分析

 このように、質の検討でのポイントは、統計学的な「有意性」よりも、実践を前提にした仮説作りのためにヒントを探すことなのです。端的に云えば、まず問題解決のヒントとなる「変化情報」をつかむことが重要だといえます。
 それがあれば、仮説検証的な実践の中でさら確かめやすい内容をチェックし、知ろうとする対象を深掘りしていくことができます。「量」の問題は、その仮説の検証後でもよいということが、実践では重要な視点だといえるでしょう。
 左記のように顧客をいくつかの発展段階とみなす視点は、「顧客ライフサイクル」というコトバで知られています。これは一般には、顧客が見込み段階から新規客→固定客→ロイヤル客という時間軸での発展プロセスをみたものですが、離反客も量より質ということからライフサイクルとして「見える化」することが重要だといえるでしょう。


■匠 英一(Eiichi Takumi)プロフィール
匠 英一氏 デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部:教授
和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。
90年より(株)認知科学研究所を創立。95年より中堅IT企業に入社し、インターネット活用の企画営業や顧客管理(CRM)のコンサルに従事。これまで11の異業種団体や資格団体を創設。公的な役職として、中央職業能力開発協会OA検定中央委員、CRM協議会理事・事務局長、早稲田大学客員研究員など歴任。
 現在は上記大学の教授職を兼務しながら、(株)人財ラボ(上席研究員)と(株)ミリオネット(非常勤取締役)などで顧客サービス発想法、eラーニング、CRMシステムのコンサル業務に従事。
 著書には、「顧客見える化」、「心理マーケティング」、「CRM入門」訳、「カスタマーマーケティングメソッド」訳、「意識のしくみを科学する」、「イラストでわかる心理学入門」等多数あり。
E-mail:takuei@netlaputa.ne.jp

 
 

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