1977 年の Psychological Review に興味深い論文が掲載されました。タイトルは Telling More Than We Can Know: Verbal Reports on Mental Process (Richard E. Nisbett and Timothy DeCamp Wilson) です。
この論文の導入で、 Nisbett と Wilson はいくつかの質問を投げかけています。例えば、『どのようにしてこの問題を解いたのだろう』『なぜこの人を好きになったのか』『なぜ今の仕事を選んだのか』……。生活している中で、私たちは当然のこととして受けとめていることでも、実はよく考えてみるとなぜそのような選択をしたのか、どのようにその問題を解決したのか、なぜそのような行動をとったのか、結果にいたるプロセスを意識していないときが多くあるのではないでしょうか。
脳手術を受けた患者さんの協力を得て、神経生理学者ベンジャミン・リベットが行った実験の結果から、脳に末梢の感覚刺激が到達したとき、意識は実際にはそれより遅れて 0.2 秒から 0.5 秒後に刺激に気付くことが分かりました。百分の一秒を争うスポーツ競技を考えるとかなりの時間ですが、主観的にはその感受時刻が繰り上げられてほとんど遅れなしに気付いていたかのように経験しているそうです。リベットが「主観的時間遡行」( subjective back referral in time )と名づけた現象の発見です。
Telling More Than We Can Know: Verbal Reports on Mental Processes . Richard E. Nisbett & Timothy DeCamp Wilson , Psychological Review, Volume 84, Number 3, May 1977
Subjective referral of the timing for a conscious sensory experience . Libet, B., Wright, E.W. Jr., Feinstein, B., Pearl , D., Brain 102: 193-224, 1979