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特集2:心理学博士 奥村幸治の“「知る」「分かる」「変わる」科学“ 第4回 〜思っている以上のことを自分は知っている〜
パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント
奥村幸治(プロフィール
   〜思っている以上のことを自分は知っている〜
1977 年の Psychological Review に興味深い論文が掲載されました。タイトルは Telling More Than We Can Know: Verbal Reports on Mental Process (Richard E. Nisbett and Timothy DeCamp Wilson) です。

 この論文の導入で、 Nisbett と Wilson はいくつかの質問を投げかけています。例えば、『どのようにしてこの問題を解いたのだろう』『なぜこの人を好きになったのか』『なぜ今の仕事を選んだのか』……。生活している中で、私たちは当然のこととして受けとめていることでも、実はよく考えてみるとなぜそのような選択をしたのか、どのようにその問題を解決したのか、なぜそのような行動をとったのか、結果にいたるプロセスを意識していないときが多くあるのではないでしょうか。

 会社の同僚に誘われて、ある焼鳥屋さんに行くのが楽しみになりました。最初は焼き鳥ということでさほど期待はしていなかったのですが、実際料理を食べると、鳥料理に対する見方が大きく変わるほど鮮烈な印象を与えてくれました。味覚には人それぞれ好みがありますが、私にとってそこの焼鳥屋さんはもはや単なる"焼き鳥"ではなく別のレベルの"鳥料理"になってしまったのです。素材の素晴らしさは言わずもがな重要な要因だと思いますが、おいしさの鍵は何よりも店のマスターの腕にあります。店に通うたびにマスターの料理方法について少しずつ話をしてくれるわけですが、指、手のひら、唇、目、鼻、など、どれも身体を使って"加減"を判断しているようです。指の感覚で肉の焼き加減が分かる。うまみを最大限引き出すために素材に火を通すがこれ以上焼くとおいしさが半減する、そのような"加減"を身体は知っているのです。この感覚は口で説明するには非常に難しいけれども、身体の一部ではそのことをよく"分かっている"という現象です。

 私たちも、これと似たような感覚を持ってはいないでしょうか。『このタイミングでお客さんに話をしておいたほうがよい』『おそらくこの方法でプログラムを組み立てたほうがよい』『今は行動に移さないほうがよい』など、直感的に判断をするわけですが、実際そのようにやってみるとうまくいったケースが多々あると思います。十分理由を考える時間を取らなくても、瞬時にして、的確な判断を下したり適切な方法を選択したりする。不思議な現象です。

 脳手術を受けた患者さんの協力を得て、神経生理学者ベンジャミン・リベットが行った実験の結果から、脳に末梢の感覚刺激が到達したとき、意識は実際にはそれより遅れて 0.2 秒から 0.5 秒後に刺激に気付くことが分かりました。百分の一秒を争うスポーツ競技を考えるとかなりの時間ですが、主観的にはその感受時刻が繰り上げられてほとんど遅れなしに気付いていたかのように経験しているそうです。リベットが「主観的時間遡行」( subjective back referral in time )と名づけた現象の発見です。

 0.2 秒から 0.5 秒までの時間。環境からの情報や刺激を分析して意思決定する自分。時間が経過して考える自分。瞬時に身体的に反応する自分。これらすべて自分が経験していることです。

参考文献
『関係としての自己』木村敏、みすず書房、 2005 年

Telling More Than We Can Know: Verbal Reports on Mental Processes . Richard E. Nisbett & Timothy DeCamp Wilson , Psychological Review, Volume 84, Number 3, May 1977

Subjective referral of the timing for a conscious sensory experience . Libet, B., Wright, E.W. Jr., Feinstein, B., Pearl , D., Brain 102: 193-224, 1979


■奥村幸治 氏プロフィール
奥村幸治氏 パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント 人材開発に関わるコンサルタント、アセスメント、トレーニング、コーチングに携わる。ブリガムヤング大学カウンセリング心理学博士課程終了。心理学博士。NPO国際ボンディング協会理事。さめじまボンディングクリニックカウンセラー

 
 

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