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特集1:顧客志向の次世代マーケティング ”顧客見える化”の視点から W 顧客の満足度と収益効果を関連づける“地図”
デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部 教授 匠英一(プロフィール
■顧客満足度が上がると商売はうまくいく?

 「お客様第一」と言いながらも、売上げが落ちてきたりすると"押し売り営業"に走る。そして、少し満足度を上げる努力をしたけれど、実際にはコスト高になり収益悪化。こうなると、顧客満足が大事と言っても説得力がありませんね。
 なぜ、こうした歪んだ営業になってしまうのでしょうか。「目先の利益しか考えないていないから」といえば、まさにそのとおりですが、もっと根本から考えてみましょう。
 顧客の焦点を定めずに、ただ満足させることを目的にした顧客満足経営は収益を悪化させるものです。それは本来のCRM(顧客関係管理)ではありません。
 ここでの営業の落とし穴は、「木を見て森を見ず」というコトワザに集約されます。迷ってしまった森の中から抜け出すには、森の中での自分の位置を把握すること。"視座"を知るということです。顧客見える化の問題に戻ってこの例えを当てはめてみると、顧客の満足度と収益効果を関連づける"地図"が必要となるはずですね。

■業界特性に合わせた満足度向上策を!

 その例としてあげたのが図1であり、さまざまな業界ごとに顧客満足度と収益効果との関係の一般的傾向を示したグラフです。
 電話やガス、水道といった会社は日常何も問題が起きなければよく、それほど思い入れのある商品・サービスを売りにするものではありません。そのため、インフラ系の会社が高い満足度を提供する努力をしても、ほとんど収益につながりません。しかし、電話が繋がらないといったクレームの対応が遅れたりすると大変なことですね。これは図1の曲線の左端の動きからわかるように、不満客への対応を誤るとすぐに収益悪化の原因になります。
 一方、これとは逆なのが自動車などの高級品を売る会社です。こうした業界は、不満客を満足させてもほとんど収益効果はなく、図の右端の満足客の満足をさらにアップすることが求められます。これがトヨタのレクサス販売店が、高級ホテル並みの対応をしている理由でもあります。
 こうした顧客満足度の"業界特性"を知っていると、むやみに"平等"に満足度をアップすることは問題だとわかるはずです。インフラとなる商品や日常品を販売しているなら不満客を重点に対処し、ブランドの高級品なら満足客に注目すべきとなります。つまり、自社がどの位置にあるかを明確にしたうえで、業界特性に合わせた満足度向上策が大事であり、それを"視座"とした「顧客戦略」が必要なのです。

■満足度の蓄積のうえにある「顧客ロイヤルティ」の意味は?


「顧客満足」と同様に、あいまいな形で語られるのが「顧客ロイヤルティ」です。「この違いがわかりますか」と講演などで聞くと顧客のわが社への忠誠心といった答えが返ってきます。確かにそういう面もありますが、これは図2のような「他者への推薦」と「再購入行動」を含む構成概念なのです。これを次のような事例から解説してみましょう。
 東国原知事は「県民ロイヤルティ」の高い知事として知られますが、その理由は何でしょうか。なんと言っても、過去の悪いゴシップもリソースにして、県民の期待(図の「顧客の期待」)へとプラス変換したことです。その「したたかさ」は単なるゴウマンではなく、むしろ自己の弱点を認めつつ、未来への「はしご」にしてしまうものでした。誰でも弱点はあり、政敵はそこにつけ込んでくるのですが、東国原知事は足をすくわれるどころか、「県民の推薦」(図の「他者の推薦」)へと変え、自己のパワーにしてしまいました。
 私の専門の認知科学からすると、説得の神髄とは、一見自己否定であるかのようなコトバで自己を下げながら、一方で高いプラスメッセージへの転換を相手の無意識のレベルで行うことです。そもそも満足度とは「初期の期待」と「現状の成果」とのギャップの大きさで決まるものです。同じ成果であっても初期の期待が小さいほうが後の満足度は大きくなります。東国原知事への県民の満足度はその典型的な事例なのです。
 高いロイヤルティはこうした心理的要因が蓄積されて生まれますが、「顧客ロイヤルティ」も同様に期待を裏切らない満足度の蓄積のうえに、再購入の行動が伴う結果(成果)を表す概念だといえるでしょう。


■匠 英一(Eiichi Takumi)プロフィール
匠 英一氏 デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部:教授
和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。
90年より(株)認知科学研究所を創立。95年より中堅IT企業に入社し、インターネット活用の企画営業や顧客管理(CRM)のコンサルに従事。これまで11の異業種団体や資格団体を創設。公的な役職として、中央職業能力開発協会OA検定中央委員、CRM協議会理事・事務局長、早稲田大学客員研究員など歴任。
 現在は上記大学の教授職を兼務しながら、(株)人財ラボ(上席研究員)と(株)ミリオネット(非常勤取締役)などで顧客サービス発想法、eラーニング、CRMシステムのコンサル業務に従事。
 著書には、「顧客見える化」、「心理マーケティング」、「CRM入門」訳、「カスタマーマーケティングメソッド」訳、「意識のしくみを科学する」、「イラストでわかる心理学入門」等多数あり。
E-mail:takuei@netlaputa.ne.jp

 
 

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