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特集1:顧客志向の次世代マーケティング ”顧客見える化”の視点から T なぜ「顧客見える化」が必要か
デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部 教授 匠英一(プロフィール
■あなたの会社の優良顧客とは?

 筆者は経営とITのコンサル屋さんです。同時に大学教員も兼ねた"認知科学者"でもあります。エッ?、認知科学って……。勘違いしないでください。認知症を治す学問ではありません。心理学と脳科学を足して2で割り、人口知能科学を掛け算したような学問です。なんとも怪しいですね。それは連載の中で随時ご説明するとして、まずはこんな問いからです。

「あなたの会社の"優良顧客"は誰ですか」

 売上げ(購入額)が一番多い客ですと応えるかもしれませんが、それは違います。たとえば、あるパソコンメーカをコンサルしていたときのことですが、展示会場のアンケートで「あなたはマック(PC)を愛していますか」という質問にマルをした人が1000人以上いました。そこで、営業に行くと、なんとこの人達は自分では購入もしていない"客"だったのです。それは学校教師や医者といった職種の人でした。彼らは教育委員会や病院で購入しているため、直接当人は本社の顧客リストには載っていなかったのです。ところが、この客は自分の生徒や教育委員会に薦めたり、購入決定に関わるなど、営業を代行するような役割を果たす"優良顧客"だったわけですね。

 "優良"の中身が表面上の売上額だけで見ていたりすると、重要な顧客を見逃してしまうことがわかります。そのために、顧客関係管理の方法として注目されたのが「CRM」(Customer Relationship Management)であり、90年代の後半からIT業界でブームになったものです。過去3年の間で筆者は100社以上の現地調査をし、その成果を「CRMベストプラクティス白書」(CRM協議会発行http://crma-j.org/)などに紹介しました。

■インターネットは顧客の「個の力」を最大にする

 例えば、あるホテルグループの売上全体で占める法人営業の割合は、10年前には7割だったものが、今や2割といいます。これは予約というプロセスが従来の営業ベースとは関係なく、ネット型の代理販売に変わったためです。インターネットは「個の力」を強める方向に働くため、法人顧客に頼っていた従来のホテル・旅館は負け組となってしまっているわけです。営業力よりマーケティング力が相対的に重要になってきているのですね。これはホテル業界だけでなく、ビジネス全般に及ぶ流れです。インターネット時代が始まる2000年を境にして、営業力とマーケティング力のビジネス効果が逆転しはじめたということでしょう(図1)。

■営業主導からマーケティング主導型への転換を!

 飛び込み営業などでは、個人の営業マンの努力が企業としてはマイナスとなることさえあります。この時のマイナス効果をどうやって知ればよいでしょうか。また、企業ブランドイメージがどの程度落ちたのか、あるいはセールストークにだまされたと感じている購入客をどうやって知ればよいでしょうか。こうした問いを営業担当側が通常の業務で知るきっかけはほとんどないはずです。ところが、日本の企業は、マーケティング部が欧米のような独立型でなく、営業本部に従属したケースがほとんどです(図2)。ここに企業の多くが陥っている個人営業スタイルでの限界があります。「顧客見える化」を推進していくうえでも、これは大きな障害なのです。

 次回よりマーケティングの新しい発想法を、拙著『顧客見える化』から紹介していきたいと思います。どうぞご期待ください!


■匠 英一(Eiichi Takumi)プロフィール
匠 英一氏 デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部:教授
和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。
90年より(株)認知科学研究所を創立。95年より中堅IT企業に入社し、インターネット活用の企画営業や顧客管理(CRM)のコンサルに従事。これまで11の異業種団体や資格団体を創設。公的な役職として、中央職業能力開発協会OA検定中央委員、CRM協議会理事・事務局長、早稲田大学客員研究員など歴任。
 現在は上記大学の教授職を兼務しながら、(株)人財ラボ(上席研究員)と(株)ミリオネット(非常勤取締役)などで顧客サービス発想法、eラーニング、CRMシステムのコンサル業務に従事。
 著書には、「顧客見える化」、「心理マーケティング」、「CRM入門」訳、「カスタマーマーケティングメソッド」訳、「意識のしくみを科学する」、「イラストでわかる心理学入門」等多数あり。
E-mail:takuei@netlaputa.ne.jp

 
 

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