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特集4:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(10)
 ●事例

 では、事例を使って行動のインセンティブの与え方を説明しよう。
 (前回までのあらすじ)
 筆者は以前A社の人事システムの改善を担当した。A社の人事システムは、セールスマンの業績評価・給与計算を行うもので、10年以上の保守を重ねた結果、頻繁に誤計算などのシステム障害を繰り返すようになっていた。A社ではこの事態を問題視し、再三、システム部に改善命令を行ったがうまくいかなかった。このシステムの管理者の山下とメンバーの人間関係も悪化し、メンタル面でも非常に大きな問題に発展している状況であった。
 そこで、筆者はまずメンバーにミッションを認識させることにした。ミーティングはもちろん、日常のあらゆる機会を使い、メンバーにミッションは何かを問いかけることにした。最初は筆者をよそ者扱いしていたメンバーたちだったが、次第に自分たちのミッションを認識するようになっていった。そして、自分たちの品質改善への取組みを実行して成果が出はじめると、品質改善対策を実施することに動機を見出すようになっていった。

 ここまでくるとメンバー達はミッションを達成すること=動機になってくるので全体としてはよい循環になっている。ただし、メンバー一人ひとりの動機レベルは異なっていた。すっかり、やる気を取り戻した者もいるし、周囲の影響で合わせている者もいる。そして、まだまだ乗り切れてない者もいる状態だ。そこで、これからは全体に対する指導というよりも、個別のモチベーションコントロールになる。メンバーは一人ひとり異なる人間だから、行動のインセンティブも異なる。これを個別指導しなくてはならないのである。
 筆者はいくつかのパターンで個別指導していったが、その1つを紹介したい。今回の場合、特殊だったのは、「上司に対する高い評価」が行動のインセンティブにならなかったことだ。山下とメンバーの信頼関係は壊れているため、誰も山下に褒めてほしいと思っていない。というよりも、何をしても、山下から褒められることはありえないというメンタルブロックができあがっていたというのが実情である。
 そこで、筆者は考えた上で、「山下を見返す行動、山下がいなくてもよい組織をつくる」という動機を与え、これを彼・彼女らの行動のインセンティブとすることにした。少し不謹慎と思われるかもしれないが、筆者がよくやる手でもある。「山下課長が考え付かない手で解決しよう。山下課長なしでも維持できるように、組織を抜本的に変えよう」このようなことを行動のインセンティブにしたのである。
 これは予想以上に効いた。メンバーは本気になり、事例や雑誌、品質維持活動などの学習をはじめ、打ち合わせで披露、具体的な対処策をすぐ実行していったのである。それを続けていくうち、彼・彼女らの組織は周りの組織を追い抜き、非常に優れた組織に変貌していったのであった。
 

■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net/
ブログ : http://d.hatena.ne.jp/officearon/
連絡先 : clinic@a-ron.net

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