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特集4:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(10)

IT教育コンサルタント 芦屋 広太(プロフィール

 あなたはヒューマン・マネジメント能力に自信をもっているだろうか? マネジメントで最も難しい"人間の問題"、これにうまく対処しなくては仕事の成功はない。"人を動かすためには何が必要か"を理解し、適切に行動しなければならない。
 前回は「動機(モチベーション)の重要性と具体例について説明した。ミッションを理解したメンバー達が動機付けされていくプロセスが分かっていただけたと思う。
 人間が行動するのには理由がある。それが「動機」である。動機がなければ行動しないし、行動していれば動機があるということになる。一般に、「行動を促すために動機付けを行う」というのは広く知られた考え方である。ところが、どのように動機付けを行うかという方法論はあまり知られていない。うまく動機付けを行うためには、人間の行動に影響する「行動のインセンティブ」を理解し、自由自在に操ることが必要である。
 
 ●行動のインセンティブの具体例


 行動のインセンティブについては、既に説明済みであるが、基本的な考え方は「人間の行動は報酬によって決まる」というものである。
 例えば、会社で昇進したいと思っている人(以下Aさん)は、昇進に対する影響力をもつ上司に高い評価を得られることを好む。そして、それに繋がる行動をAさんは積極的に行い、上司に評価されないような仕事を嫌がる。報酬と行動にこのような関係がある場合、Aさんの行動のインセンティブは「上司の高い評価」と考えることができる。興味深いのは、仮にAさんが行う行動が、会社や世の中のために重要でも、上司がそう思わなければAさんは積極的に行動しないことである。実際には、「評価されること」という行動のインセンティブのほかに「社会貢献したい」「会社の将来を考えているのは自分という満足感」など複数の行動のインセンティブが共存するため、複雑なものになっていくのだが、ここでは、シンプルにするため、Aさんは「上司が評価してくれる行動しかしない」という前提で、Aさんを動かすための方策について考えることにしよう。


 Aさんにある行動Xをしてほしい人(Bさん)がいる場合、行動XがAさん自身のミッションの範囲内であったり、メリットがある場合は特に問題になることはない。たとえば、Aさんは上司から命じられたミッションがあり、そのミッションを達成するための仕事の一部をBさんがお願いする場合、Aさんが基本的に拒否することはないはずである。これは、「Aさんのミッション、動機=Bさんのお願いしたい仕事」の関係が成り立つからである。
 問題なのは、「Aさんのミッション、動機≠Bさんのお願いしたい仕事」の場合である。この場合、Aさんは仕事を積極的に受けようとしないことが想定される。なぜなら、Aさんにとって、その依頼された仕事に関する行動のインセンティブがないからだ。いわゆる「うまみのない仕事、骨折り損、タダ働き」などと揶揄される類の仕事である。AさんとBさんの人間関係が良好であり、かつ過去にBさんがAさんを助けた経緯でもあれば、また違う結果になるが、そういう関係でない場合、Bさんの依頼をAさんは断る可能性が高い。
 では、どうすればAさんは仕事を引き受けるか? 簡単な話である。Aさんに行動のインセンティブになるもの(=報酬)を与えればよい。それは、金銭的、物的、情報のような有形・無形の価値あるものであってもよいが、最もよいのは、「上司の指示や上司の評価」である。Aさんは最も欲しいものは「上司からの高い評価」なのだから、BさんはAさんに仕事を依頼するときに、それを報酬とするのが効果的になる。
 具体的には、1.Aさんの上司に事情を話し、Aさんに指示してもらう、2.Bさんが、Aさん働きぶりや行動のよさをAさんの上司に話す(上司によい評判を伝えてあげる)などを工夫していけばよい。このような行動のインセンティブの与え方が、人を動かす重要な要素になるのである。

 
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