ある事例を使って説明しよう。もう、8年近く前になるが、筆者がシステム改善の仕事をしていたときの話である。システム改善とは、何らかの理由で品質が悪化したシステムや開発生産性が低いシステム、業務遂行力が低い組織に赴き、半年〜1年くらいで改善するという仕事で、いわばシステムや組織を治療する医師みたいなものだ。
筆者はこの仕事をずいぶん長くやっていたので特殊技能が備わった。ヒューマン・マネジメントに関するスキルを身につけたのも、この仕事を通してである。
話を元に戻そう。A社のシステムと組織・人材を改善したときの話だ。そのシステムは人事システムで、セールスマンの評価と給与計算を行うものだった。一般的に、評価と給与というのは非常にデリケート。自分の評価と給与がシステムミスで間違っていたと考えてみれば分かると思うが、非常に品質が要求される分野のシステムである。A社のシステムは、評価と給与を頻繁にミスするシステムになっていた。
こんなミスを会社が許すわけがない。A社のシステム部門は社内で相当厳しい立場に追い込まれていた。そこで、何とかしたいと思ったA社のシステム部長が、システム改善経験をもっていた筆者をアサインしたのである。
筆者はすぐ診断に入った。するとヒューマン系でよくない状況であることが分かった。本来、システムの改善というと物理的なシステム仕様の詳細構造分析から入ると思われがちだが、筆者の場合は違う。まず、人間関係(ヒューマン・リレーション)を見る。システム改善で重要なのは、そこのシステムを担当しているメンバー(部下、上司を含めて)で改善分析を行い、対策を実行してもらうことだ。筆者一人で孤軍奮闘できるわけがないのである。したがって、ミッション遂行、モチベーションを阻害する「人間関係の悪化」は取り除いておかなくてはならない。これが筆者が最初に「人間関係」を厳しく分析する理由である。
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