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特集4:現場の事例で学ぶマネジメント連載ヒューマン・マネジメントのテクニック(5)


IT教育コンサルタント 芦屋 広太(プロフィール

 あなたはヒューマン・マネジメント能力に自信をもっているだろうか? マネジメントで最も難しい"人間の問題"、これにうまく対処しなくては仕事の成功はない。"人を動かすためには何が必要か"を理解し、適切に行動しなければならない。

 前回はエリア(2)のマネジメントについて説明した。自分の「ミッション」や「行動のインセンティブ」を理解していない人間のマネジメントでは、「何がミッションなのか」「何をしたら自分は嬉しいのか」を気づかせる外的働きかけが必要になることを説明した。
  このためには、部下をはじめ、メンバー全員をよく観察し、質問をしながらコーチすることが欠かせない。気になる言動や行動があれば確実に話をしておくことなど、良好なコミュニケーションが欠かせないと言えよう。  それでは、第5回目の今回はエリア(3)のマネジメントについて説明しよう。

 


 
●エリア(3)のマネジメント


 エリア(3)は自分の支配下になく、ミッションや行動のインセンティブが明確な人材のマネジメントである。このエリアの人材は基本的に指揮命令系統が異なるため、マネジメントには工夫がいる。
 マネジメントの基本は「ミッションの違い」を理解し、相手を尊重することと、「行動のインセンティブ」を理解し、相手の喜ぶことを積極的に行うということである。

○ミッションの違いを理解する

 ここでいうミッションの違いとは、たとえばベンダーのPM(プロジェクトマネージャ)の立場と顧客企業のユーザ担当者の立場の違いということである。立場が違えば当然、ミッションは異なる。
 PMはコスト超過やスケジュール遅延が最も嫌いである。もともとPMのミッションは「決められたコスト、納期で品質よくシステムを完成させること」であるのだから、これに反する結果になれば評価は悪くなる。それどころか、二度とPMを担当させてもらえないかもしれない。だからコスト超過やスケジュール遅延に繋がるようなことを嫌がるのである。これがPMの立場であり、ミッションである。

 一方、ユーザ企業の担当者の立場とミッションは違う。ユーザの担当者はコストが高くなることも、スケジュールが遅延することも直接的には責任を持っていないと考えることが多い。つまり、コスト超過やスケジュール遅延は開発側の責任と考えている人が多いのである。では、システム発注側のユーザ担当者の立場、ミッションは何かといえば、それは通常、システムがサポートする業務がうまくいくことである。業績アップに資するシステムを構築するなら、業績アップの実現に資するシステムを作ることがミッションになる。例えば、ノウハウを社員で共有するシステムなら(1)コンテンツが誰にでも登録しやすい仕組みになっている、(2)情報検索がしやすい、(3)検索スピードが速いなどが該当する。ユーザ担当者がこれらの仕様にこだわることが多いのは、それが彼・彼女らのミッションだからである。
 ここで問題が起こる。ユーザ側はできるだけ時間をかけて使いやすいシステムにしようとし、開発側にインターフェースなどに関する多くの要求をする。スケジュールが遅延しそうになっても使い勝手を優先して要求を出し続ける。しかし、PMは困る。そしてたびたび両者のコンフリクトが発生する。PMが不機嫌に「要件確定」を主張し、ユーザ担当者は「まだ確定できない」と反論する。これでプロジェクトの雰囲気は悪くなり、進まなくなるのである。
 筆者は過去このような対立を何回も見てきたが、いつも対立の原因は同じ━━PMがユーザ担当者のミッションを十分理解できていないということである。
 このような対立を避けるには、まず、ユーザ担当者のミッションを理解した上で、彼・彼女らがこだわるところとそうでないところを分離し、こだわるところは、開発側がその検討を積極的にサポートしてあげることである。他社事例を教えてあげたり、過去の経験から役に立つ情報を与えたりしてミッションの遂行を助けてやる。ユーザ側の関心事に合わせたスケジュール管理をすることでプロジェクトをコントロールするのである。このように書くと簡単なように思えるが、これをうまく実施しているPMは少ないのが現状だ。

○「行動のインセンティブ」を知る

 もう一つ重要なことに彼・彼女らの「行動のインセンティブを知る」ということがある。基本的に指揮命令権のない人材をコントロールするためには、彼・彼女らが「どうしたら行動するか」を理解し、行動を促す働きかけをしなければならない。
 「要件定義をしてほしい」「仕様を固めてほしい」と言っても、簡単には動いてくれない場合が多い。こんな状況で腹を立てても無駄。「あのPMはすぐ感情的になる」「進めかたがうまくない」との悪評判になってしまうのである。
 彼・彼女らの行動を促すのに一番効果があるのは、「彼・彼女らの評価を上げる」ことや「困っている状況を解消する」ことに繋がることを実施することである。
 例えば、上司に「さすが、御社の社員はすばらしいですね」と言ってみたり、彼らが上司に説明する資料を作ってあげたりすればよい。当然、難しいシステム用語は簡単にして、分かりやすくする工夫が欠かせない。このように、彼・彼女らのミッションや行動のインセンティブを理解し、適切に働きかけることで、部下ではない人材、顧客の担当者であってもうまくコントロールすることができる。これこそヒューマン・マネージメントの真骨頂である。

 では、次に具体的事例を紹介しよう。

 
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