企業インタビュー
営業現場の最前線で「DX」を共通言語に
営業部門600名 DXビジネス領域のリテラシー向上を推進
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社様
マーケティング本部 ビジネスアーキテクトセンター センター長 荒木 貴史様
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社様は、パナソニック株式会社の社内カンパニーとして、電気設備の分野で住宅、オフィス、ホテル、商業施設、スポーツ施設など社会を構成するあらゆる“くらしの空間”で事業を展開照明器具、電設資材などを製造・販売されています。 今回お話を伺ったマーケティング本部様は、いわゆる営業部門にあたり、同社のサービス・製品をお客様に寄り添った形で提案されています
- ■Profile
荒木 貴史様
1990年松下電工入社、電設資材の営業としてキャリアをスタート。各地で営業部門責任者を務めた後に、 営業企画部門責任者を経て、2020年より現在のビジネスアーキテクトセンターの母体となる営業プロセス革新部に異動。 2021年より現職にてマーケティング本部のDX推進を統括
(※所属部署、肩書、インタビューの内容等は、取材当時のものです)営業部門であるマーケティング本部が「DXビジネス」を本気で学ぶ意義
――本日は、お時間をいただきありがとうございます。パナソニック株式会社エレクトリックワークス社様(以下EW社)が、 マーケティング本部において「DXビジネス検定™」を受検された経緯をお伺いする前に、EW社のマーケティング本部と「DX」の関わりについて教えていただけますか?
荒木様 弊社のマーケティング本部といいますと、つまり営業部隊です。これまでDXの取り組みに関しては、 どちらかというとシステム部門に任せがちで、やりたいことだけ口を出す、というような状況でした。 しかしそれではビジネスの変革が伴わないということで、2020年に戦略企画室の中に営業プロセス革新、 2021年度からデジタルマーケティング推進準備室、そして2022年にデジタルマーケティング推進室が創設されました。 そしてこの4月にデジタルマーケティングだけではなくて、やはりビジネス全体の変革を主軸に据えようということで、 「ビジネスアーキテクトセンター」と改称し、現在取り組みを進めております。
――デジタル時代に欠かせない人財として「ビジネスアーキテクト」は今、大変重要視されていますね。 (編集部注、ご参考: 独立行政法人 情報処理推進機構「ビジネスアーキテクト」解説ページ)
荒木様 特徴的なのは、営業現場にもこれだけの人員をかけてDXに注力しているところでしょうか。EW社全体としても、 色々なデジタルの活用であるとか、未来に向けた取り組みをする中で、「DX」はもう避けては通れない喫緊の課題として、 我々の部門はビジネス現場における「ビジネスアーキテクト」として「DX」を推進していこうという形になっています。
高シェアに甘んじず、データドリブン営業へ舵を切る
――その中で、何か「DX」に関する課題はありましたか?
荒木様 当社は電設業界においては高いシェアをいただいていますが、これには、これまで各代理店様との繋がりやお客様との関係構築を大切にし、 全国の各都道府県に営業所があることで実現する、きめ細かな人員配置などの点で他社との差別化が図られている点がありました。 一方で、営業社員は非常に多岐にわたる知識を求められており、属人的、属地域的な営業効率の悪さというのも顕在化していました。 このような流れのなか、これまでの出荷情報であるとか、お客様の情報というのが大量に蓄積されており、 それらを活かしたデータドリブン営業に変革をしていくことが会社方針としても求められるようになりました。 例えば、それまで我々の営業現場では、まず売り上げさえ上げれば、手段であるとか、お客さんとの関係づくりであるとか、 受注の仕方はある意味、個人に任されていました。しかしもっとデータを活用して、何か良いやり方がないのかということで、 5年ほど前から「セールスフォース」を導入したのですが、その導入の中で、DXの知識が現場にないことが課題として浮かび上がってきました。
――「DXビジネス検定™」受検にはどう結びついたのですか?
荒木様 当社の「DXビジネス検定™」との出会いは、当初は「DXセンター」というEW社の中のシステム部門が主管となってスタートし、 どちらかというとシステム寄りの人たちが中心となって受検をしていました。
我々マーケティング本部は、営業側の組織の中に立ち上げたDX推進組織ですので、「DXセンター」の皆さんが受検する際に、 我々の方にも声がかかりました。ビジネスアーキテクトセンターは、当時はまだデジタルマーケティング推進室でしたが、 その中でチームからも受検する人を何人か選出して、挑戦させていただきました。 その際に受検した印象が「ビジネス現場でも使えそうだな」というもので、そこからマーケティング本部の中の経営責任者のメンバーの中でディスカッションを重ねて、 営業のメンバーに受検させようと決定したのが経緯ですね。
▲「ベンチャー経験や先進システムに詳しいキャリア入社の方や、外部のコンサルタントの方 とも会話する機会が増えています。そういった方と対等に話せるためにも組織としての底上げは重要です」と荒木様。
組織としてDXを推進するには、まず責任者から
――600名様規模で受検いただいていますが、どのような方が受検されたのですか
荒木様 当初は全員という案もあったのですが、まずは責任者には受検を必須としましたので、その層が400名ほど受検しています。 それ以外の一般社員メンバーは任意ということにしていたのですが、200人ほどが手を挙げてチャレンジしてくれました。 実は受検前は、どちらかというとネガティブな意見も多かったです。やはり日頃馴染みがない分野ですし、 「この手の研修は自己啓発でするもので、業務の時間を使ってやるものではない」というような意見も出ていました。 しかし組織としてDXを推進していくうえで、特に責任者のリテラシーや理解がないと決して現場には落ちていかないことは経験としてわかっていたんです。
社長、本部長も自ら受検を宣言し、受検ムードを醸成
――まずは責任者に、DXへの理解を浸透させることが重要とお考えになったのですね。
荒木様 前述の「セールスフォース」導入の際にも、とくに最初の1、2年で苦労したのは、現場責任者がブレーキを踏むことでした。 「データを打ち込んでいる暇があるんだったら足を使って現場に行け」というような話がやはり聞こえてきたのも事実で。 やはり現場の責任者に、まずはその意識を変えてもらう。自分の現在地を認識してもらうという意味で、責任者はマストにしました。
またその時に、当社EW社のトップである社長の大瀧をはじめ、我々マーケティング本部長の稲継も含めて、「自分も受ける」と宣言してもらいました。 そういった意味でも、トップからDXビジネスを学ぶ、という強い啓蒙もあり、本部での雰囲気が変わっていきました。
――トップが宣言してくださったのは大きいですね。受検後はどのような効果を実感されていますか?
荒木様
色々なDXの用語は日進月歩の世界でどんどん増えています。例えば会議資料ではDX用語を日本語に翻訳する、
要はあまり横文字を使わないようにするという風潮がありました。従って、DXの知識が現場にないと、
会話が成り立たないなどといった話もありました。逆に言えば、ある程度言葉の理解ができたなら、
興味も湧いてくるということで、そういった点が変化してきています。
私自身、「DXビジネス検定™」を初めて受けた時に良かったのは、DXに関する用語が理解できるようになり、しかもそれが体系的に網羅されていることでした。
例えば自社に導入されているデジタルツールが、何のために使われていて、なぜ自社で必要とされて、ということが理解できるようになります。
また、DXのビジネス事例の理解は、例えば社外との情報交換会というのをよく開催する中、その際に他社事例の理解に役立ちます。
DXビジネス検定の中でも多数の事例が入っていますが、将来の目標としてはそういうところに取り上げられるようなDXビジネス事例が出せればと思いますね。
――ありがとうございます。貴社とお客様との接点において何かお考えになっていらっしゃいますか?
荒木様
お客様によっては、我々以上にDXの取り組みを進めておられるので、
そこでの会話がまず成り立たないと、ビジネスもやはり進めにくかったりします。
また我々もIoTに関するような商材というのは、例えば顔認証や、デジタル商材を販売している立場でもあるので、
「そこで蓄積したデータをこういうふうに活用できます」というところまでの、
ソリューションとセットで提案していくことが必要になっていくので、最低限のDXリテラシーは必須です。
一方で流通のお客様、代理店様も含めて、人手不足の観点からも、近年DXの取り組みが非常に進んできています。
場合によってはメーカー以上に独自色を打ち出されて、自社で勉強されているところもあるので、キャッチアップしていく必要性を感じています。
――2023年度のご実施は、検定主催の一般社団法人日本イノベーション融合学会が毎年行っている「IFSJアワード」で、貴社が見事、企業表彰の対象となりましたが、その点はいかがですか?
▲2024年9月27日に渋谷で行われた「IFSJイノベーションアワード」(表彰式)で、「DX検定シリーズ企業優秀賞」の賞状を受け取られた荒木様。(右は日本イノベーション融合学会の西山理事長)
荒木様 「プロフェッショナルレベル」「エキスパートレベル」の認定者が多いという点を表彰していただいたことは、素直に未来に期待が持てる点でした。 また、20代、30代の、自分で手を挙げて受けていた人たちが200人ぐらいいたとお話しましたが、 彼らの得点が高かったことも明るい話題で、特に今回個人でも年度のトップ3の得点を叩き出してくれた社員がおりまして、 「どうやって勉強したらあんなに高得点が取れるのか、ちょっと本人に会って聞いてみたい」というように、社内でもかなり話題になりました。
――「DXビジネス検定™」を受検される際、例えば「●●レベルを目指しましょう」「スコア何点以上を目指しましょう」といったような具体的な目標は設定されましたか?
荒木様 初回から「プロフェッショナル」や「エキスパート」をハードルにしてしまうと、ちょっと高すぎるので、 昨年の受検に際しては設定していませんでした。我々は営業現場なので、全員がプロフェッショナルレベルを目指す必要はないのですが、 今後、組織としての底上げはしていきたい、レベル未認定の人たちは減らしていきたいと考えています。
私個人の例でいうと、1回目に受けた時は、「DXビジネス・プロフェッショナルレベル」を取れたので、2回目も!と思っていたのですが、 結果は「DXビジネス・エキスパートレベル」になってしまって。なので、今日あんまり胸を張って前に出られないのですが。
――いえ、エキスパートレベルも素晴らしい結果です。
荒木様
2回目に受検した時の気付きとして、やはり新しい話題がきちんと網羅されていたことには感心いたしました。
この手の話題は少し目を離すとすぐに浦島太郎になってしまうので。
レベル認定は2年間有効と言っていただいているものの、「これは毎年受けてキャッチアップしていかないと」とも感じました。
ベーシックな部分は同じだと思いますが、他社事例、特にAIの分野は日進月歩ですから。
ちょうど先週、サンフランシスコでセールスフォース様のイベントがあったので行ってきたのですが、もう町中、AI一色でした。
そこで初めて自動運転のタクシーに乗ったのですが、ショックを受けたのが、人の運転よりよっぽど乗り心地がよかったことです。
非常に交通状況の悪い中で、完全にAIが働いてサービスが展開されているということを目の当たりにして、
これは本当にAIを日常に活用する世界が迫っていると実感しました。
そこで少し「DXビジネス検定™」に対する要望になるのですが、ビジネス事例に、ぜひこういった海外の事例をさらに増やしていただけたらと思いました。 やはり日本企業は今の時点では一歩遅れをとっていますので。もう海外の会社ではこんなことやっているのだから、と、我々背中を押していただきたいですね。
「DXビジネス」を「ファイナンス」や「論理的思考」と同様に「ビジネスOSスキル」として定義
――ありがとうございます。DX検定委員会に伝えさせていただきますね。荒木様はこういった先進の事例を実際に肌で感じていらっしゃいましたが、営業の現場にいらっしゃる皆様には「DXビジネス」の必要性をどのように伝えていらっしゃいますか?
荒木様 「私たちが目指す営業」を定義し、そのためにはこういったスキルが必要であるということを体系化していまして。 その体系のベーススキル「ビジネスOSスキル」の中に、「DX」も入れています。「ファイナンス」や「論理的思考」と同じ位置づけです。 マーケティング本部には、営業職ではない方も在籍していますが、その皆さんにも本部にいる以上は、必要なスキルとして考えています。
同時に、組織として、ラーニングカルチャー作りが、極めて重要だと考えています。実は「DXビジネス検定™」を最初に導入した時は、 そのきっかけにできれば、ということを考えていました。自分がどんなレベルかを客観的に把握できたら、 学びのきっかけになるのでは、ということです。
――おっしゃる通りで、結果を全国平均などとも比較できますので、きっかけとして使っていただく例は多いです。
荒木様 あとは日常業務の中でいかにその必要性や、危機感を醸成していくかというのが課題です。 実際、地方の営業所と都市部の営業所で危機感、肌感覚が違ったりします。必要性を日常生活の中に、埋め込んでいければいいのですが。 ただしこれはかなり個人によりますよね。年齢層が高いベテランの課長でもかなり触発されて DXの勉強をするようになったという人もいれば、本当に勉強せずに受けた人の中には、 「もう何がなんやらわからないままに終わってしまった」という方もいて。
――ある一部分の知識が突出していても、高得点を得られないということもありますね。
荒木様 そうなんですよ。知識のあると認識されていた人でも、DXの仕事を生業にしているような人たちでも、 スタンダードレベルしか取れなかったという事例も聞きました。だからやはりこの検定は歯ごたえがあるっていう認識になっています。 同時にシステムやITに偏っていないのが良いですよね。リアルビジネスの部分も知識として必要なので。 我々幹部の中でもこの収益モデルとか、ビジネスモデルのところは面白い、という話が良く出ていました。
――新入社員様から経営者様まで、マーケティング本部の皆様全員の共通言語として認識が広がりそうですね。
荒木様 社内の資格登録のシステムにも、全員分登録しているので、社内としてもきちんと記録に残るように広がっています。 またパナソニックもご存知の通り、事業会社や社内カンパニーがたくさんありまして、他のカンパニーもDXの取組みをそれぞれ進めていますが、 DX推進のメンバーの情報交換等でも検定受検を事例としてお話させてもらっています。 「勉強していかなければいけない」という機運は、全社を通じても、とても高まっていることを感じています。 今年も11月に受検を予定していますが、テストの受検前だけでなく勉強を日常的に継続できるような「ラーニングカルチャー」が根付けばいいなと思います。 毎年1回受けるんだ、という認識が広がれば、それだけでもかなり効果はあるのかなというふうに考えています。