
はじめに
皆さん、DUNLOP(ダンロップ)ブランドの商品を、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。 車を運転する方ならタイヤで、あるいはゴルフやテニスなどのスポーツブランドとしても非常に有名です。
このDUNLOPブランドを展開しているのが、住友ゴム工業株式会社です。
歴史あるメーカーですが、実は今、デジタル技術を駆使した「最先端のテック企業」へと変貌を遂げています。
また、同社の強みである技術やブランドを、ビジネスに昇華させています。
今回のコラムでは、同社の取り組みを、以下の通り2回に分けて解説します。
・前編「ブランド戦略と主力事業の進化」
・後編「技術の強みを活かした更なる事業展開」
前編となる今回は、DUNLOPの「ブランド戦略」と、主力商品のタイヤをデジタルの付加価値で進化させる「センシングコア技術」について、見ていきたいと思います。
ライセンシングビジネス
本題に入る前に、ライセンシングビジネスについて少し説明しておきたいと思います。
ライセンシングとは、自社が所有するブランドや知的財産権を他社に有償で提供することで収益を上げるビジネスのことです。
ブランドなどを持っている企業を「ライセンサー」と呼び、ライセンス使用料を支払ってブランド名を使用する企業を「ライセンシー」と呼びます。
知的財産を活用して収益を上げたり、新たなビジネスモデルを創出したりすることを「IPビジネス」と言い、今や日本を代表するビジネスになりました。
ライセンシングは、このIPビジネスの重要な要素の一つでもあります。
ライセンサーとライセンシーのイメージ図

住友ゴム工業の歴史とブランド戦略
2025年12月3日に、住友ゴム工業は新ブランドステートメント「TAKING YOU BEYOND」を策定し、コミュニケーションブランドを「DUNLOP」に統一すると発表しました。
住友ゴムグループ長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」の中でも、ブランド経営の強化が掲げられています。
まさに、DUNLOPブランドを武器にして、グローバル展開を加速させるということです。


DUNLOPブランド戦略発表資料(住友ゴム工業)より引用
(https://www.srigroup.co.jp/ir/library/financial-report/dvql4p00000qekq7-att/dunlopbrand202512.pdf)

「統合報告書2025」(住友ゴム工業)P16より引用
(https://www.srigroup.co.jp/ir/dvql4p0000017ub0-att/2025_all.pdf)
もともとはDUNLOPブランドを使用する側(ライセンシー)だった同社が、DUNLOPブランドを世界中に展開するようになるまでには、紆余曲折がありました。
まずは、同社の歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。
住友ゴム工業の歴史は、1909年に英国ダンロップ社によって設立された日本初の近代的ゴム工場から始まります。
当初は「ブランドを借りる側」でしたが、その関係性が大きく変わるきっかけとなったのが、当時、日本政府から受けていた「100%子会社から海外への高率なロイヤリティ送金は認めない」という通告でした。
このままでは本国へ送金できないという事情から、英国側は住友グループに資本参加を要請。
こうして1960年に住友電気工業と住友商事が出資することになり、1963年に現在の「住友ゴム工業」が誕生しました。
その後、同社はタイヤ事業や商標権の買収を重ね、米国グッドイヤー社とのアライアンス契約の締結と解消など、紆余曲折を経ながらDUNLOPブランドを自らの手で獲得していきます。(詳細な歩みは下図をご覧ください)
DUNLOPブランドの推移
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1909年 | 英国ダンロップ社により日本初の近代的ゴム工場として創業 |
| 1960年 | 住友電工、住友商事が資本参加 |
| 1963年 | 日本側の出資比率が50%を超え、「住友ゴム工業株式会社」に社名変更 |
| 1983年 | 英国ダンロップ社から欧州タイヤ事業を買収 |
| 1986年 | 米国ダンロップ社を買収 |
| 1999年 | 米国グッドイヤー社とアライアンス契約を結び、欧米のグループ企業をグッドイヤー社に委ねる |
| 2015年 | 米国グッドイヤー社とのアライアンスを解消 |
| 2025年 | 欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤのDUNLOP商標権等を取得 マレーシア、シンガポール、ブルネイにおけるDUNLOP商標の独占使用権を取得 コミュニケーションブランドを「DUNLOP」に統一 |
そして2025年、ついに欧州・北米等の商標権や一部アジア地域の独占使用権を取得。
長い年月を経て、名実ともに世界中でDUNLOPブランドを展開できる体制が整ったからこそ、冒頭の新ブランドステートメント「TAKING YOU BEYOND」へとつながったのです。
参照:DUNLOP、新ブランドステートメント「TAKING YOU BEYOND」を策定 ~コミュニケーションブランドをDUNLOPに統一し、グローバル展開を加速~(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.srigroup.co.jp/newsrelease/2025/sri/2025_092.html
参照:住友ゴム紀行「ヒモトク」(住友ゴム工業):2026年1月時点
第1回「創業前、ゴム業界の立ち上がり」
https://www.srigroup.co.jp/topics/detail/?topicsno=1332
参照:住友ゴム工業 企業情報 「沿革」(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.srigroup.co.jp/corporate/history.html
タイヤメーカーから、先進デジタル企業への進化
ここまで住友ゴム工業の歴史とブランド戦略について触れてきましたが、同社の進化はそれだけにとどまりません。
現在、タイヤの製造だけでなく、デジタルを駆使した先進技術にも注力しています。
その象徴と言えるのが、独自のセンシング技術「センシングコア」です。
一般的に「スマートタイヤ」と言うと、タイヤの内部に物理的なセンサーを取り付け、データを計測するものを想像されるかもしれません。
しかし、この「センシングコア」の最大の特徴は、タイヤに特別なセンサーを一切取り付けないという点にあります。
では、どうやってタイヤの状態を知るかというと、 その答えは「タイヤの回転情報」にあります。
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)などで利用される車輪速信号などを、独自のアルゴリズムで徹底的に解析し、タイヤの空気圧低下や摩耗具合、さらには荷重のかかり方まで検知することを可能にしました。
住友ゴム独自のセンシングコア技術

「センシングコア技術」(住友ゴム工業)より引用
(https://www.srigroup.co.jp/saiyou/technology/sensing.html)
これは、機械の故障を未然に防ぐ「予知保全」にも通じる技術であり、路面の滑りやすさなどの状態も把握することで、道路の安全性向上や自動運転との連携も期待されています。
センシングコアの提供価値
| 検知対象 | 提供価値の例 |
|---|---|
| タイヤ空気圧 | タイヤ点検の自動化 パンクトラブル防止 燃費、EVの電費性能向上、CO2排出量可視化 |
| 路面状態 | 前方の滑りやすい路面の検知 路面すべりやすさマップ |
| タイヤ荷重 | 過積載、偏積載の防止、横転事故の防止 |
| タイヤ摩耗 | タイヤ点検の自動化 タイヤメンテナンスやタイヤ再生の時期管理 |
| 車輪 | 車輪脱落予兆検知 |
「センシングコア技術」(住友ゴム工業)より引用し、筆者が作成
(https://www.srigroup.co.jp/saiyou/technology/sensing.html)
この「センサーを使わない(ソフトウェアだけで構成されている)」という特性は、ビジネスモデルにも大きな可能性をもたらします。
物理的なセンサーが不要なため、理論上は他社製のタイヤを含む、あらゆるタイヤ・車種で利用できるからです。
これにより、自社のタイヤを販売するだけでなく、この技術を他社や自動車メーカーに提供する「ソフトウェアのライセンスビジネス」という新たな収益源が生まれます。
タイヤから得られるデータを活用し、異業種との協創も視野に入れているといいます。
将来的には、物理的なタイヤの市場シェアよりも、このセンシングコア技術を搭載した「アプリ(ソフトウェア)」のシェアの方が大きくなる可能性さえ秘めているのです。
住友ゴム工業は、単なるゴム製品のメーカーではなく、デジタル技術とデータ分析を駆使した先進企業へと進化していると言えるでしょう。
参照:「センシングコア技術」(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.srigroup.co.jp/saiyou/technology/sensing.html
参照:タイヤセンシング技術“ SENSING CORE(センシングコア)” (住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.srigroup.co.jp/saiyou/technology/project02.html
参照:「センシングコア技術紹介」(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.youtube.com/watch?v=PYRVUHALaMA
さいごに
企業や製品のブランド力とは、一朝一夕にできるものではありません。
長年にわたる企業の真摯な努力と、そこから生まれる顧客の「信頼の証」そのものです。 今や、この無形の資産を最大限に活かす「IPビジネス」は、日本の主力産業の一つとなっています。
世界統一によるブランド戦略を進める住友ゴム工業の取り組みは、まさに「育て上げた信頼(ブランド)を、現代のビジネスモデルで最大化する」好例と言えるでしょう。
また、センシングコア技術は、単なる「タイヤの販売ビジネス」に留まらず、全く新しい価値を生み出しています。
まさに、技術を武器にしたビジネス進化の理想形だと思います。
次回(後編)では、
・コア技術を社会貢献に寄与させる住友ゴム工業の取り組み
・コア技術を応用した他分野への多角化戦略
を紹介します。
今回学んでほしいポイント
- ブランドも、ビジネス展開の重要な要素であることを知る
- 製造メーカーによる、ソフトウェアライセンスビジネスへの展開例を学ぶ
- 「モノ(タイヤ)」から「情報(データ)」へ価値をシフトさせるビジネス視点を学ぶ

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト
福島 仁志
ふくしま ひとし
[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。

