LNGをヒントに温泉を輸出?/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.16

LNGをヒントに温泉を輸出?

一人ひとりの好みや行動、状況などに応じてサービスを変える手法を「パーソナライズ」と言います。
今回のコラムでは、最新の研究データによるお肌の健康とパーソナライズに関するサービス、さらには温泉を国内資源として輸出しようと取り組んでいる事例についてご紹介します。

お肌のケアどき診断

「お肌のケアどき診断」は、@cosmeアプリに搭載されている機能で、画像から読み取った顔の色や形をもとに、皮脂に含まれるRNA(リボ核酸)のタイプを推定し、さらに、その人にとって最も改善しやすいケアポイントが提案されるというものです。

この機能を開発した花王は、元々直営店で皮脂を直接採取しRNAを分析するサービスを提供していましたが、この機能を開発するにあたって、大量の顔の画像を収集し、皮脂から直接採取したRNAのデータと組み合わせて、肌の色や形の特徴をAIに学習させるなどにより、顔の画像からRNAの情報を推定できる仕組みを作ったそうです。

皮脂を直接採取する方法に比べると、精度は落ちるかもしれませんが、顔の写真を3枚撮るだけで、肌の状態がわかり、その状態に合った肌ケア商品を選べるという手軽さは消費者のニーズに合っているといえます。

@@cosme_お肌のケア時診断

お肌のケアどき診断の概要

事例の概要写真の画像から読み取った顔の色や形をもとに、皮脂に含まれるRNA(リボ核酸)のタイプを推定し、さらに、その人にとって最も改善しやすいケアポイントが提案される
ポイント元々は直営店で皮脂を直接採取しRNAを分析するサービスを提供していたが、写真を利用し、より簡易に分析できるAIを開発した

参照:@cosme for BUSINESS「トレンドコラム」:2025年7月時点
https://business.cosme.net/column/trend/20250502

参照:istyle 「プレスリリース」:2025年7月時点
https://www.istyle.co.jp/news/press/2025/05/0521.html

肌に存在する常在菌により左右される肌の状態

続いても、お肌のケアに関する話題です。
2025年6月3日の日本テレビ系列の「カズレーザーと学ぶ」という番組の中で「芸能人美肌菌ランキング大発表」というコーナーがありました。
興味深かったのは、出演していた東京慈恵会医科大学の出来尾准教授の話でした。
出来尾准教授によると人の肌には約100種類、数億から数十億の菌が住んでいて、そのバランスにより、肌の状態が左右されるそうです。
腸内細菌やそのバランスの重要性についての話題はよく目にするので知っていましたが、肌の常在菌の話については初めて知りました。

また、肌トラブルの多くは菌のバランスが崩れたり、菌が暴走したりすることにより起こるというのです。
その代表例として、番組内で紹介されていたのは、増えすぎると肌トラブルを起こす「マラセチア菌」や「黄色ブドウ球菌」でした。
そして、これも初めて知ったのですが、別府温泉など、ミョウバン泉を含む温泉には「マラセチア菌」の増殖を抑制する効果があったり、草津温泉のお湯は常在菌のバランスを変化させ、「黄色ブドウ球菌」を退治する効果があるということも紹介されていました。

別府温泉
ミョウバン泉を含む別府温泉

恥ずかしながら、私はこれまで「温泉の何かの成分が、化学反応か何かによって肌をきれいにするんだろう」くらいの漠然とした認識しかありませんでした。
なるほど、温泉の成分が肌の常在菌と関係があるのか!と思い、日本温泉郷化のホームページを調べてみたところ、以下のような一文が目に留まりました。

「入浴による殺菌効果は、皮膚表面で細菌などが増殖して皮膚症状を悪化させるような、細菌性皮膚疾患、真菌性皮膚疾患などに効果を表す。アトピー性皮膚炎などは、皮膚の表面でブドウ球菌などが増殖し、その部位で炎症を起こし、かゆみや湿疹を生じる。皮膚表面を殺菌することで効果を生じる。」(「日本温泉協会 温泉名人 温泉の医学的効果とその科学的根拠とは!?」より一部抜粋)

殺菌するだけでなく、常在菌を整えてくれるのですからありがたいですね。
ちなみに、出演していた芸能人の方の肌の常在菌チェックには、World Fusionのサービス「S-KIN PRO」利用されたとのことでした。

日本テレビ系列の「カズレーザーと学ぶ」で私が知ったこと

肌の常在菌腸内細菌と同じように、人の肌にも数億から数十億の菌が住んでいて、肌の健康状態に影響を与えているということ
温泉の効用温泉の成分が肌の常在菌に働きかけて、常在菌のバランスを取ってくれることなどにより、肌の健康状態を良くするということ

参照:日本温泉協会 温泉名人「温泉の医学的効果とその科学的根拠とは!?」:2025年7月時点
https://www.spa.or.jp/onsen/4790/

参照:World Fusion「ヒトマイクロバイオーム専用サイト」:2025年7月時点
https://www.s-kin.jp/shop

Le Furo社の「クラフト温泉」

続いて温泉の話題です。
日本は世界有数の温泉大国ですが、温泉は24時間365日ずっと湧き続けていてるにも関わらず、温泉として利用されているのは、ほんの一部だけ。
大半は利用されずに、流れ出ていくだけというのです。

そこに目を付けたのが、Le Furo社CEOの三田直樹氏です。
同社の製品「クラフト温泉」とは温泉水と源泉近くから採取した鉱石を使って、濃度を1万倍まで濃縮させるというもので、200リットルのお湯にキャップ4杯分を入れるだけで、温泉の成分がお湯に溶け込み、自宅などで利用できます。

また、少し違う観点でクラフト温泉を活用しているのが「TOJI TOKYO」です。
これはクラフト温泉の原液に近いものを気化させたミストを浴びることができる施設です。
この用法であれば、岩盤浴やサウナのような形で利用することができます。

TOJI TOKYO
「TOJI TOKYO」Webページより



ビジネスの観点から見たクラフト温泉の最大の特長は、「温泉を輸送可能にする」というコンセプトです。この発想は、LNG(液化天然ガス)から得たといいます。
元々気体で存在する天然ガスは、液体化することにより、体積が1/600になり、輸送しやすくなり、広く世界で利用されるようになりました。

クラフト温泉も、温泉濃度を1万倍まで濃縮することにより、二次利用を促すだけでなく、温泉を輸送できるようになる。それによって、日本の資源として活用できる。ゆくゆくは日本を温泉資源大国にしたい。それがLe Furo社の考えなのです。
前回のコラムでも触れたように、やはり、発想のヒントは違う分野の身近なところにある。そう再認識しました。

クラフト温泉の概要

事例の概要温泉水と源泉近くから採取した鉱石を使って、濃度を1万倍まで濃縮させて、温泉の二次利用を進めている
ポイント気体で存在する天然ガスを液体化することによって体積を1/600にして、輸送しやすくなったLNG(液化天然ガス)をヒントに、「温泉を輸送可能にする」ことを実現した

参照:株式会社Le Furo「クラフト温泉」:2025年7月時点
https://le-furo.com/craftonsen/

参照:TOJI TOKYOホームページ:2025年7月時点
https://toji-tokyo.com/

肌の常在菌を予測できるアプリができたら

「カズレーザーと学ぶ」の番組内では、実際に菌を採取して常在菌の割合を調査していましたが、「お肌のケアどき診断」と同じように、肌画像をAIに学習させて、簡易的に常在菌バランスを診断するアプリも開発できるのではないかと感じました。

個々人の肌の常在菌パターンや健康状態を推測して、その肌の状態に合ったクラフト温泉をお勧めする。
そんなことができるといいなとの考えが浮かびました。
みなさんも、自分の肌の状態に合った温泉、欲しいと思いませんか?

クラフト温泉の海外展開

「カズレーザーと学ぶ」の番組に出演していたある芸能人の方から、東ヨーロッパの人にしか存在しないはずの常在菌が確認されました。
このことからもわかるように、世界ではその地域特有の常在菌が存在します。
海外の常在菌パターンも学習させたAIができれば、海外でも一人ひとりに合ったクラフト温泉をお勧めできます。

先に紹介した「TOJI TOKYO」のように、クラフト温泉のミストを噴出させる岩盤浴的な使い方であれば、湯船で入浴する習慣の無い海外でも展開が可能です。
このように、パーソナライズされたデジタルサービスとセットであれば、日本が温泉資源大国により近づくのではないかと思いました。

最後に


日本には素晴らしい技術やアイデアが豊富にあると思います。
技術で勝って、ビジネスで負ける日本、という状況にならないように、デジタル技術とビジネス知識をフルに活用し、異なる価値を融合してイノベーションを創造する。
そんな未来を創り上げていきたいと切に思います

今回学んでほしいポイント

  • 最新の科学研究が、ビジネスにつながる事例を知る
  • 他社などの事例を知ることが、ビジネス発想や実現の手助けになる
  • 異なる価値を融合してイノベーションを創造することを学ぶ

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この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。