
米津玄師さんの本歌取りとビジネス発想のコツ
Vol.13のコラムでは、米津玄師さんとデジタル時代ならではの人財発掘について取り上げました。
今回は米津玄師さんの楽曲の歌詞から、ビジネス発想や顧客のソリューション発想について考えてみたいと思います。
米津玄師さんの楽曲にみる歌詞と文学作品からの引用事例
Vol.13のコラムで、米津玄師さんが自身の楽曲を広く聞いてもらう手段として、ニコニコ動画への投稿やボーカロイドの活用を行った話を書きました。
今回はそこから発展して、米津さんの歌詞にスポットを当てたいと思います。
米津玄師さんの楽曲の歌詞は、詩や文学作品の言い回しを引用したものを多く見かけます。
ドラマ「アンナチュラル」の主題歌で大ヒット曲となった「Lemon」は、親しい人の死を歌ったもので、作曲中に彼の祖父が亡くなったことも大きく影響を与えたといいますが、曲名や歌詞全体のイメージとして、高村光太郎の「智恵子抄 レモン哀歌」からインスピレーションを得たといいます。
また、2024年4月にスタートした、NHK連続テレビ小説「虎に翼」の主題歌の「さよーならまたいつか!」の歌詞には、「しぐるるやしぐるる町へ歩み入る」というフレーズがあります。
これは、俳人の種田山頭火の句「しぐるるやしぐるる山へ歩み入る」から、山を町と言い換えて引用しています。
また、ジョージアのCMソング「毎日」の歌詞には、「ぢっと手を見る・・・」というフレーズがありますが、これは詩人の石川啄木の「一握の砂」の中の「はたらけど はたらけど猶(なお) わが生活(くらし) 楽にならざり ぢっと手を見る」からの引用です。
彼の日本文学に関する知識の広さには驚かされます。
参照:Kenshi Yonezu 米津玄師YouTube「米津玄師 Kenshi Yonezu – Lemon」:2025年6月時点
https://www.youtube.com/watch?v=SX_ViT4Ra7k
参照:Kenshi Yonezu 米津玄師YouTube「米津玄師 – さよーならまたいつか!「虎に翼」OPタイトルバック・フル」:2025年6月時点
https://www.youtube.com/watch?v=5DNqESedFMk
参照:Kenshi Yonezu 米津玄師YouTube「米津玄師 – 毎日 Kenshi Yonezu」:2025年6月時点
https://www.youtube.com/watch?v=BYGo5t6rdA8
本歌取りとビジネス発想
米津玄師さんはテレビのインタビューの中で、これらの引用について「本歌取りを意識している」と語っていました。
本歌取りとは、古い歌や句(本歌)を意識的に取り入れて、元の本歌とは別の新しい価値を生み出す手法といえます。
ただの模倣にとどまらず、新しい価値を生み出しているというところがポイントになります。
本歌を知らなくても成り立ちますし、本歌を知っていれば、本歌の情景を思い浮かべながら、新しい歌の情景にも重ね合わせることができます。
新しい歌を生み出すときに、自分の知っている本歌の中からヒントを得ることは、新しいビジネスや製品の発想のプロセスに似ていると私は感じています。
他業種の事例からビジネス実現のヒントを得た事例
手前みそになってしまいますが、私自身の経験のお話をさせていただきます。
時代は遡ること、インターネット第二次ブームと言われ、企業のホームページが盛んに作られ始めた頃の話です。
世の中が大きく動いていた時代で、今の時代との共通点も多い気がします。
当時、電話の新規受付は営業所まで来てもらうことが主流でしたが、それをホームページで行うシステムを作りたいと考えていました。
しかし、ネックになったのは在庫管理で、新しく付与する電話番号や開通を行うための社内リソース手配をするためには、基幹システムの大きな改修が必要だったのです。
そんな時にヒントになったのは、まだ始まったばかりのホテルのインターネット受付の仕組みでした。
全く違う業界の話でしたが、ホテルではインターネットで受付ける部屋の枠を通常の受付とは別に確保しているという記事をたまたま読んだのです。
これにヒントを得た私はインターネットで受け付ける電話番号や社内リソースの枠を通常の受付とは別に確保することによって、サービスを立ち上げることができました。
インターネットによる電話の新規受付のサービスは、当時の「日経トレンディ」にも時代の先進事例として取り上げられました。
他の業界の情報にもアンテナを高くしていて良かったとつくづく感じたことを覚えています。
いろいろなことがインターネットやスマホでできるのは、今では当たり前のことです。
その「今の当たり前」を25年以上前に当時の先進事例として作ったことは、自分の自信にもなっています。
そして、ビジネス発想のヒントは、他の業界を含めたいろいろなところに潜んでいると思うのです。

ウォシュレット開発のヒントとなったもの
今では、訪日外国人にも大好評を得ているトイレのウォシュレットですが、開発には大変な苦労があったといいます。
そのご苦労の一端にしか過ぎませんが、意外な物が開発のヒントになっています。
一つはウォシュレットのノズルです。
このノズルのヒントになったのは、昔のタクシーに付いていたラジオのアンテナだそうです。
年配の方は具体的にイメージできると思いますが、短く収納されていたアンテナが伸びていく様子を見て、ノズルの構造に応用したそうです。
また、トイレでシステムを動作させるためには、水が多いトイレの環境がネックになったそうです。
これに悩みに悩んだ開発者が雨の日に道を歩いていた時に、雨の中でも普通に動作している道の信号機がふと目に入ります。これだ!と思った開発者は信号機の電子制御を開発していたメーカーに相談に行き、その助力を得ることによって、この課題を解決したそうです。
このエピソードは、発想のヒントだけでなく、協創のヒントにもなっていると思います。
最後に
「レンチン」という言葉は聞いたことはありますか?
「電子レンジでチン」するだけで、簡単に調理できる例などで使われます。
これも年配の方はご存知だと思いますが、以前の電子レンジは本当に「チン」となっていました。
調理が終わったことを知らせる、この「チン」と鳴る仕組みは、自転車のベルをヒントに発想されて、開発当初は実際の自転車のベルのようなものが組み込まれていたそうです。
今のDX時代は、様々な業種が様々なサービスを世に送り出しています。
もちろん、業界ならではの特徴があり、制約などがあるとは思いますが、発想のヒントはいろいろなところに落ちていると思うのです。
それに気がついて新たな発想ができるか、気づかずに流してしまうか。
「自分事」で考えられるかどうかにかかっていると私は考えています。
是非、みなさんも広く情報のアンテナを張ってアイデアを練り、発想力を鍛えて下さいね。
今回学んでほしいポイント
- 自分の趣味や関心ごとから、発想のヒントにつながることもある
- 他社の事例を知ることが、ビジネス発想や実現の手助けになる
- 他の業界の動向も、アンテナを高くして自分事として考えよう

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト
福島 仁志
ふくしま ひとし
[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。