
社会課題解決につながる金融サービス
vol.10に続きテレビドラマの内容をきっかけに、DXビジネスを考えてみたいと思います。
TBSの日曜劇場「御上先生」の第5話で、高校生が参加するビジネスプロジェクトのコンクールが取り上げられ、金融と社会貢献に関するビジネスアイデアが紹介されていました。
なかなか興味深い内容でしたので、今回のコラムは社会課題解決と金融サービスについてまとめながら、「マイクロファイナンス」や「インパクト投資」についても触れてみたいと思います。
参照:TBS日曜劇場『御上先生』あらすじ第5話:2025年3月時点
https://www.tbs.co.jp/mikami_sensei_tbs/story/ep5.html
ドラマの中の高校生のビジネスアイデア
一部ネタバレになってしまいますので、これから御覧になる方はご注意いただきたいのですが、「御上先生」の第5話では、高校生ビジネスプロジェクトコンクールに参加するために、物語の主人公・御上の受け持つ生徒たちが、社会貢献と金融についてのビジネスモデルを考えていました。
ビジネスモデルはクラス内で討議され、「高校生が夢見る 未来の企業応援ファンド」として決勝プレゼンに進みました。 そして、高校生たちが本当に未来に残したいと思える企業に少額ずつの投資をするというアイデアで、本来の金融のあり方に一石を投じるという内容でした。
発表した高校生の父親が「金融マンの誇りを取り戻せるファンドだね」と語ったことが印象的でしたが、金融の本質を深く考えさせられる内容でした。
ドラマの中だけでなく、現実の世界にも、世の中に誇ることができる志の高い金融サービスがありますので、いくつか紹介したいと思います。
GMS(Global Mobility Service)
以前のコラムでも取り上げたGMSのサービスは、クルマに利用停止可能なIoT装置を装着。
支払いが滞ったらIoT技術で遠隔利用停止するというものです。
利用停止という側面に関心が行きがちですが、このサービスの本質は、低所得者層に効果的な融資を行うことにより新たな市場を開拓し、さらには個人の生活を豊かにして経済も活性化させているところです。
低所得者層の貧困問題を解決する融資事業だと言えます。
GMS(Global Mobility Service)事例の概要
事例の概要 | クルマに利用停止可能な装置を装着 支払いが滞ったらIoT技術で遠隔利用停止 |
ポイント | 開拓不能と思われていた、与信に通らない顧客層の新たな市場を東南アジアで開拓!(ローンを組めなかった方もクルマを購入できる!) 利用者は購入したクルマを使って商売を行えるため、顧客の収入安定化にも寄与 「クルマが使えなければ困る」という利用者心理により高い入金率を実現! |
参照:GMS公式YouTube「FinTechで世界の14億人を救う」:2025年3月時点
https://youtu.be/2dROot7iCUY
鎌倉投信
次に鎌倉投信をご紹介します。
鎌倉投信は「社会的意義のあることをしている」企業に投資することをコンセプトにする投資信託会社です。
同社が投資するかどうかを判断する基準は、「“いい会社”かどうか」です。
鎌倉投信が考える「いい会社」とは、
・これからの日本に本当に必要とされる会社
・社員とその家族、取引先、地域・自然環境、顧客・消費者、株主を大切にし、持続的で豊かな社会を醸成できる会社になろうと経営努力をしている会社
を指し、そういった「いい会社」に投資しています。
鎌倉投信事例の概要
事例の概要 | 「社会的意義のあることをしている」企業に投資することをコンセプトにする投資信託会社で、同社が投資するかどうかを判断する基準は、「“いい会社”かどうか」 鎌倉投信が考える「いい会社」とは、これからの日本に本当に必要とされる会社。 |
ポイント | 社員とその家族、取引先、地域・自然環境、顧客・消費者、株主を大切にし、持続的で豊かな社会を醸成できる会社になろうと経営努力をしている会社に投資している。 |
また、この「いい会社」は、以下の「人・共生・匠」の以下の3つの評価項目に分類されています。
鎌倉投信が考える「いい会社」の3つの評価項目
人 | 優れた企業文化を持ち、人財を活かす会社 |
共生 | 循環型社会を創る会社 |
匠 | 日本の匠な技術、感動的なサービスを提供する会社 |
「90秒でわかる!鎌倉投信と「結い 2101」では、鎌倉投信のコンセプトが動画でわかりやすく説明されています。
「貯蓄から投資へ」が言われて久しいですが、マネーゲームばかりに目を向けるのではなく、このような社会的意義のある投資にも注目が集まってほしいと願うばかりです。
参照:鎌倉投信「90秒でわかる!鎌倉投信と「結い 2101」:2025年3月時点
https://www.youtube.com/watch?v=mcw2sY4BCtI
参照:鎌倉投信「「結い2101」を知る」:2025年3月時点
https://www.kamakuraim.jp/about-yui2101/concept-yui2101/
マイクロファイナンスと五常アンドカンパニー
次に紹介するのは、五常アンドカンパニーです。
五常アンドカンパニーは、「すべての人が金融サービスを使える世界の実現」をモットーに、世界各地のマイクロファイナンス企業をグループ会社として運営し、貧困層や低所得者層の顧客に、小規模の貸し付けなどを提供している、民間版の世界銀行を目指す日本発のマイクロファイナンスカンパニーです。

五常アンドカンパニーは、世界中に「金融包摂」を届けることを目指しています。
この「金融包摂」とは、Financial Inclusionの訳で、貧困や差別などによって金融サービスから取り残され、経済的に不安定な状況にある人々が基本的な金融サービスへアクセスできるよう支援し、経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組みのことです。
五常アンドカンパニーの共同創業者である慎泰俊氏は、元々格差や不平等を無くしたいという強い思いを持ち、その中でお金の重要性を考え、若くして日本初のマイクロファイナンスカンパニーを創業しました。
世界中のだれもが当たり前に金融サービスを受けることができることを目指し、機会の平等を実現するために活動している志と姿勢に敬意を払わずにはいられません。
マイクロファイナンス |
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一般的には貧困層や低所得層を対象に 貧困緩和を目的として行われる小規模金融のこと |
五常アンドカンパニー 事例の概要
事例の概要 | すべての人が金融サービスを使える世界の実現をモットーに、 民間版の世界銀行を目指す日本発のマイクロファイナンスカンパニー |
ポイント | 現地のマイクロファイナンス企業をグループ会社として運営し、 貧困層や低所得者層の顧客に、小規模の貸し付けなどを行う金融サービスである「マイクロファイナンス」を提供している。 |
金融包摂 |
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Financial Inclusion の訳で、貧困や差別などによって金融サービスから取り残され、 経済的に不安定な状況にある人々が基本的な金融サービスへアクセスできるよう支援し、 経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組みのこと |
参照:五常アンドカンパニーホームページ:2025年3月時点
https://gojo.co/landing-page-jp
インパクト投資
次にインパクト投資について触れたいと思います。
インパクト投資については、金融庁の「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針(2024 年3月)」において以下のように定義されています。
「インパクト投資は、投資として一定の「投資収益」確保を図りつつ、「社会・環境的効果」の実現を企図する投資である。一定の「収益」を生み出すことを前提としつつ、個別の投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での「効果」と、これを実現する戦略・因果関係等を特定する点で特徴がある。」
例えば第一生命はインパクト投資を開始した際に、さきに紹介した五常アンドカンパニーへの投資を行っています。
インパクト投資 |
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投資として一定の「投資収益」確保を図りつつ、 「社会・環境的効果」の実現を企図する投資のこと |
参照:「金融庁「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」」:2025年3月時点
https://www.fsa.go.jp/singi/impact/siryou/20240329/01.pdf
インパクト投資の事例(GLIN Impact Capitalの活動)
また、金融庁のホームページには、いくつかインパクト投資の事例が紹介されています。
その一つに、GLIN Impact Capitalの活動があります。
GLIN Impact Capitalは、日本と世界におけるインパクト投資とインパクトスタートアップの発展に貢献したいと考え、2020年に創業されたチームで、「より持続可能な資本主義の構築」、すなわち「経済成長と共に自律的に社会課題が解決される社会の実現」をミッションとしています。
興味のある方は、下記のリンクから参照してみて下さい。
このようなインパクト投資が盛んに行われて、私たちが本当に未来に残したいと思える企業が一つでも多く誕生・成長して欲しいと思います
GLIN Impact Capital 事例の概要
事例の概要 | 日本と世界におけるインパクト投資とインパクトスタートアップの発展に貢献したいと考え、2020年に創業されたチーム |
ポイント | 「より持続可能な資本主義の構築」、すなわち「経済成長と共に自律的に社会課題が解決される社会の実現」をミッションとしている。 |
参照:GLIN Impact Capital「インパクト投資等に関する検討会」ご説明資料:2025年3月時点
https://www.fsa.go.jp/singi/impact/siryou/20221125/01.pdf
最後に
ドラマ「御上先生」の第7話では、相対的貧困やヤングケアラーの問題も挙げられています。
また、同級生の祖父が営んでいた和菓子屋を存続させるために、第5話で活躍したビジネスコンテストチームが、お店を探している和菓子職人をマッチングして、クラウドファンディングを行うことを提案します。
私はこのエピソードを見て、 中小企業基盤整備機構の「後継者人材バンク」を思い出しました。「後継者人材バンク」とは、創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主を引き合わせ、創業と事業引継ぎを支援する事業のことです。
NHKの夜ドラ「バニラな毎日」では、自宅や学校・職場以外で自分がくつろげる場所である「サードプレイス」という言葉が頻繁に出てきますし、DXビジネスを勉強していると、これまでは何気なく見過ごしてきた事例や用語を認識できるアンテナが高くなります。
そして用語や事例が生き生きと自分の中に入っていきます。知らず知らずのうちに知識が豊かになっていくのを感じることができるのです。
「後継者人材バンク(中小企業基盤整備機構)」の概要
概要 |
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創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主を引き合わせ、 創業と事業引継ぎを支援する事業 |
参照:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 事業承継・引継ぎ支援センター「後継者人材バンク」:2025年3月時点
https://shoukei.smrj.go.jp/case-list_human_resources_bank.html
サードプレイス
概要 |
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自宅(ファーストプレイス)、職場や学校(セカンドプレイス)とは別の、 自分らしくいられて、リラックスできる第三の居場所のこと |
参照:NHK「バニラな毎日」:2025年3月時点
https://www.nhk.jp/p/ts/16GKWR9729/
今回学んでほしいポイント
- マイクロファイナンスやインパクト投資の概要と事例を知る
- 具体的な事例を通じて、社会的意義のある金融投資について、自分ごととして考える
- 日ごろ、何気なく目や耳にすることも、DXやビジネスの観点で考える習慣を身に着けよう

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト
福島 仁志
ふくしま ひとし
[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。