
DeepSeekについて考える
中国の生成AIスタートアップ企業であるDeepSeekが、推論能力を大幅に向上させた生成AIの「R-1」を発表して以来、多方面に大きな話題を呼んでいます。
DeepSeekの「R-1」は、既存の大規模生成AIに匹敵する性能を低コストで実現しており、今後はこれまでのような高性能の半導体は必要ないのではないかとも言われ、AI関連株が大きく変動するなどの影響も出ました。
価格も「ChatGPT o1」の25分の1以下で利用できるといいます(2025年1月現在)。
DeepSeek「R-1」の性能や価格の説明については、下記のリンクから参照できます。

これまでの大規模言語モデルには、高性能の半導体や多くのハードウェア、多量のエネルギーが必要になることが半ば定説になっていました。
DeepSeekがこの定説を覆し、低コストで開発・利用できる生成AIを開発したことは特筆すべきことです。
今回はこの点以外にも、私が注目した以下の3点について解説していきたいと思います。
DeepSeekについて注目した3つの観点
オープンソースで公開 | オープンソースで提供されているため、研究者や開発者が自由に活用できる |
蒸留を活用 | 「蒸留」というAIのモデル圧縮技術により、低コストを実現したと言われる |
懸念点 | データ保護の観点や悪意のあるプログラム作成指南などの懸念もある |
参照:DeepSeek-R1 Release:2025年2月時点
https://api-docs.deepseek.com/news/news250120
オープンソースで公開
まずは「オープンソース」について解説します。「オープンソース」とは、プログラムのソースコードを一般に公開し、不特定多数の開発者に利用させたり、プログラムの改変や再配布も許可したりするソフトフェア開発手法です。
代表的な例は、OSのLinuxやAndroid、WebブラウザのFirefox、プログラム言語のPythonなどがあります。
不特定の開発者が携わることによって、あらゆる分野のニーズに基づいたソフト開発や機能改善が柔軟に行えるメリットがあります。
DeepSeekの「R-1」がオープンソースで公開されたことにより、世界中の研究者や開発者が自由に利用することができ、生成AIの新規事業に新たに参入する企業も増えるかもしれません。
資金が豊富な企業の寡占状態と言ってもいい状態にあった生成AIの門戸が広く開かれることを意味しています。
生成AIを使った新規事業が大きく進展していく可能性を秘めていると思います。
オープンソース |
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プログラムのソースコードを一般に公開し、不特定多数の開発者に利用させたり、 プログラムの改変や再配布も許可したりするソフトウェア開発手法 |
モデル圧縮技術
次に「蒸留」を始めとしたモデル圧縮技術について紹介します。
モデル圧縮技術とは、AIの計算の軽量化や高速化を実現するために、AIモデルを圧縮する技術のことをいい、「枝刈り」「量子化」「蒸留」などの手法があります。
エッジAIなどへの応用も想定されています。
モデル圧縮技術 |
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AIの計算の軽量化や高速化を実現するために、 AIモデルを圧縮する技術のこと |
枝刈り、量子化、蒸留
ここでモデル圧縮の主な技術について少し掘り下げます。
最初に説明するのは「枝刈り」です。これはモデル内で影響の少ない部分を削除して、計算量を減らす手法です。
重要度の低い部分を選んで切り離すため、精度をあまり下げずに高速化することが可能です。
次に「量子化」という手法です。
「量子化」は計算する情報の量を32ビットから8ビットにするなど、情報量そのものを少なくして計算を効率化する手法をいいます。
注意点としては、ビットが小さくなるほど精度が低下する可能性もあることです。
最後に「蒸留」について説明します。
これは、大量のデータを既に学習しているAI(ここでは大規模言語モデル)を教師モデルとして、その学習結果を生徒モデル(ここではDeepSeek)に覚えさせる手法です。
生徒モデルは改めて大量のデータを学習する必要がなく、効率的にAIを構築できるのが特長です。

また、教師モデルと同じ入力データを入れたときの出力の差を最小化するようにパラメータ更新をするなどにより性能を向上させます。
DeepSeekは、既存のオープンソース大規模言語モデルを教師モデルとして学習させたとしていますが、オープンAI社はChatGPTのデータを使用したのではないかという疑念を持っており、調査を進めるとしています。
オープンAI社は自社製品の利用規約の中で、自社の生成AIが出力するデータを使ってAIモデルを開発することを禁止しているのが、その理由です。

主なモデル圧縮技術
枝刈り | モデル内で影響の少ない部分を削除して、計算量を減らす手法。 重要度の低いノードを選んで切り離すため、精度をあまり下げずに高速化することが可能。 |
量子化 | ノード間の情報を32ビットから8ビットにするなど、情報量そのものを少なくして計算を効率化する手法。 ビットが小さくなるほど精度が低下する可能性もある。 |
蒸留 | 大きなモデルの学習結果を教師モデルとして学習させる手法。 教師モデルと同じ入力データを入れたときの出力の差を最小化するようにパラメータ更新をするなどし、性能を向上させる。 |
例えが正確ではないかもしれませんが、一生懸命に大量の情報を自力で勉強するしかなかったこれまでの大規模言語モデルに対して、その大規模言語モデルを家庭教師にして、効率的なやり方だけを学んだ生徒が、その家庭教師と同じくらいの学力を持ったように感じます。
エッジAI
エッジAIという用語も押さえておきましょう。
エッジAIとは、インターネット上のサーバーでデータを集中処理するクラウドコンピューティングとは違い、利用者や端末の近くのサーバーなどでデータ処理をするエッジコンピューティングの仕組みを応用したものです。
モバイルアプリや自動運転など、通信環境の影響を受けずに処理スピードの向上が求められる利用シーンや、機能を絞ったAIの活用などで、今後もさらに進んでいくと思われる技術です。
エッジAI |
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インターネット上のサーバーでデータを集中処理するクラウドコンピューティングとは違い、 利用者や端末の近くのサーバーなどでデータ処理をするエッジコンピューティングの仕組みを応用したAI |
枝刈り、量子化、蒸留などのモデル圧縮技術とエッジAIについては、下記のリンクに詳細な説明がありますので、是非参照してみてください。
参照:ソニーホームページ「ディープラーニングのモデル圧縮とは?代表的3手法とエッジAIの必要性」:2025年2月時点
https://dl.sony.com/ja/deeplearning/about/model.html
データ保護の観点や悪意のあるプログラム作成指南の懸念
一方で、企業や諸外国でDeepSeekを規制する動きもあります。
データ保護の観点での懸念は、DeepSeekのアプリを使用した際に取得された情報は、中国のサーバーに保存されるという点が挙げられます。
また、そのデータについては中国の法令が適用されます。アプリの利用ではなく、オープンソースのプログラムをダウンロードして利用する場合にも、ソフト面だけでなくハード面も含めた情報管理面の対応を十分に考慮すべきですね。
日本政府はDeepSeekが開発した生成AIの業務利用に関して各省庁などに注意喚起を行いましたので、リンクから参照してみて下さい。
悪意のあるプログラム作成指南についても、懸念があります。
DeepSeekは他の生成AIに比べて不正利用を防ぐ仕組みが不十分だという指摘があります。
マルウエアと言われる悪意のあるプログラムの作成手法や、爆弾の作り方などを聞かれても回答してしまうため、サイバー攻撃やテロに悪用されるリスクも心配されます。
参照:DeepSeek 等の生成AIの業務利用に関する注意喚起:令和7年2月6日 デジタル社会推進会議幹事会事務局:2025年2月時点
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d2a5bbd2-ae8f-450c-adaa-33979181d26a/e7bfeba7/20250206_councils_social-promotion-executive_outline_01.pdf
最後に
このように、懸念点も多いDeepSeekですが、アメリカが先行する生成AIの世界に激震が走ったことも事実です。
中国ではDeepSeekの他にも様々なAIモデルが開発されていると聞きます。
メリットとデメリットの両方をしっかりと理解して、今後の動向にも是非、注目をしていきましょう。
今回学んでほしいポイント
- DeepSeekが注目されているのは、価格面と性能面だけでないことを知り、概要を理解する
- DeepSeekを通じて、オープンソースやモデル圧縮技術などの用語も理解する
- DeepSeekのメリットとデメリットを理解し、各国政府や企業の今後の動向についても関心を持つ

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト
福島 仁志
ふくしま ひとし
[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。