プロフェッショナルの技術のデジタル化ビジネス/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.8

プロフェッショナルの技術のデジタル化ビジネス

前回のコラムで、声優の努力の結晶である「声」を活用した生成AIが、彼らのようなプロフェッショナルの仕事を奪うためではなく、市場そのものの拡大に貢献するように、適正な報酬を払う仕組みが少しでも早く浸透して欲しいと書きました。

今回は、実際に声優の「声」をビジネスとして稼げるようにしたサービスや取組みを含めて、プロフェッショナルの技術をデジタル化している事例をご紹介したいと思います。

多言語翻訳もできるCoeFont

最初にご紹介するのは、「CoeFont」というサービスです。

このサービスでは、次のようなことをすることが可能です。

① 入力した文字を音声で読み上げ


入力した文字をAI音声が読み上げてくれます。
声優の森川智之さんや後藤邑子さんなどの著名人の声で読み上げることもできます。

② 自分の声をAI音声に

自分の声を録音すると、それを基にAI音声を作成してくれます。
「CoeFont通訳」の機能を使うと、自分の声をリアルタイムで英語や中国語に翻訳して発声してくれます。
ZoomなどのWeb会議で利用することもできるようです。

③ AIを活用したグローバル戦略パートナーシップ


『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空役で有名な野沢雅子さんなどが所属する「青二プロダクション」と提携して、所属声優の声を多言語翻訳して利用するサービスも始まっています。
映画やアニメなどの作品での利用は行いませんが、・音声アシスタント、ロボット・医療機器などの音声ナビゲーション搭載製品等へ提供を行うようです。

CoeFontの概要

事例の概要自分の声をAI音声にして、入力した文字を自分の声で読み上げることができる
有料プランでは、著名人の声をビジネスなどに利用することもできる
ポイント・自分の声を提供している声優などに報酬を支払う仕組みを持っている
・ZoomなどのWeb会議で、自分の声を英語や中国語に翻訳して発声することもできる
・声優の声を多言語翻訳して、音声アシスタント、ロボット、医療機器などの音声ナビゲーション搭載製品で活用することができる

参照:CoeFontホームページ:2024年12月時点
https://coefont.cloud/ 

CoeFontで失われる自分の声を残す

CoeFontのホームページでは、声帯摘出手術をされる方やALS患者の方など、今後自分の声を失う可能性のある方向けに、CoeFontを提供している事例が紹介されています。

声帯摘出手術を受けた妻が、声を失ったあとも「自分の声」で夫と会話している姿を見ると感動を禁じえません。

この映像には、CoeFontの創業者のコメントも収録されています。

創業者の早川尚吾社長は、当時20歳。

東京工業大学(現東京科学大学)在学中に起業しています。

このような若い方が、世の中の役に立ち今後の声ビジネスを大きく変える可能性のあるサービスを開発・提供している姿を見ると、本当に頼もしく感じます。


参照:TBS NEWS DIG Powered by JNN
「20歳が社会を変える! AI音声が“絶望”を“希望”に【news23】」:2024年12月時点
https://youtu.be/gpOyCGxLHCE 

日本音声AI学習データ認証サービス機構(通称AILAS)

また、有名な実演家※やキャラクターの権利を守りつつ、そっくりの音声をビジネスで正しく活用できるようにするフェアトレードシステムの実現を目指している、「日本音声AI学習データ認証サービス機構(通称AILAS)」のような取組みもあります。

興味のある方は、是非参照してみて下さい。

※実演家とは:俳優、舞踊家、演奏家、歌手ら著作物を演じる者

参照:日本音声AI学習データ認証サービス機構:2024年12月時点
https://ailas.or.jp/ 

ユーハイムのTHEO(テオ)

次にTHEO(テオ)を紹介します。

THEO(テオ)は、職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化、無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができるというものです。

THEOのサービスページでは、「バウムクーヘン AI 職人」と紹介されています。

クラウド化されたTHEO2.0では、材料の配合や焼き加減などの製造データを保存した「レシピバンク」に接続可能になり、様々な焼き具合のバウムクーヘンが作れるそうです。

クラウド化されたTHEO2.0を鶏卵農家に貸し出し、市場に売り出せなくて廃棄されていた規格外の卵を利用して、バウムクーヘンを作る取組みも行っています。

ユーハイムでは、レシピの利用履歴をもとに、利用料を職人が得る仕組みも検討しているとのことです。

この取組みで、苦労して培ったバウムクーヘン職人の技術が、世界中に広まり、正当な報酬を得る仕組みができるといいですよね。

THEO(テオ)の概要

事例の概要職人が生地を焼く技術をAIに機械学習させデータ化、無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができる
ポイント・クラウド化されたTHEO2.0では、バウムクーヘンの製造データを保存した「レシピバンク」に接続し、どこでも様々な焼き具合のバウムクーヘンが作れる
・レシピの利用履歴をもとに、利用料を職人が得る仕組みも検討している


参照:THEOホームページ:2024年12月時点
https://theo-foodtechers.com/ 
https://theo-foodtechers.com/about  

ライブの真空パック

最後にご紹介するのは、ヤマハの「ライブの真空パック」と言われるReal Sound Viewingです。

これは、アーティストの演奏をデジタル化して正確に記録し、楽器の生音による演奏を忠実に再現するシステムです。

ライブならではの臨場感を何度でも味わうことができます。


「ライブの真空パック」Real Sound Viewingの概要

事例の概要アーティストの演奏をデジタル化して正確に記録し、楽器の生音による演奏を忠実に再現する
ポイント・一流ミュージシャンが自分の演奏を聴いて驚くほど、ライブの再現度が高い
・貴重なライブ音源のデジタル保存という意義だけではなく、新たなビジネスを生む可能性も秘めている

参照:ヤマハ リアルサウンドビューイング:2024年12月時点
https://www.yamaha.com/ja/about/business/music-connect/real-sound-viewing/

一流ミュージシャンが語る未来の可能性

ロックバンドのLUNA SEAが「ライブの真空パック」アンバサダーに就任しています。

アンバサダー就任の会見で、ベーシストのJさんは

「僕が演奏した音と違っていたら・・・という不安もあったんですけど、まったく僕が弾いたそのままのタッチと音色が甦ってきているのを聴いて、これは音楽にとってとんでもないことではないかと改めて思っている。」

「この演奏がこのままずっと未来に残っていくということの可能性、全ミュージシャンの夢を乗せた挑戦ではないかと思っている。」

という旨の発言をしています。

また、ギタリスト・ヴァイオリニストのSUGIZOさんは

「僕らのライブが、演奏が、息遣いが、100年後、500年後に残ることにロマンを感じる。」

「ベートーヴェンやバッハの時代には譜面で音楽の魂を残すしかなく、今の時代は音楽の魂を録音物に残せる。ライブの息遣いも残せるこの技術は録音機や蓄音機が生まれたのと似たレベルの衝撃だと思う。すべての音楽家、ミュージシャンの魂を残すための手段だ。」

という旨の発言をしています。

一流ミュージシャンである二人の発言を聞いて、この技術の精緻さと可能性を感じることができます。

本物に近いライブをいつでもどこでも体験できるようなビジネスも実現していくと思います。

Jさんの発言にもありましたが、若い人たちが本物の演奏を身近に感じることができるようになり、さらなる才能や感性を磨いていく、そんな未来に私もワクワクしています。

参照:Yamaha Japan LUNA SEAの「ライブの真空パック」アンバサダー就任会見/『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』再現ライブ・技術説明会:2024年12月時点 https://www.youtube.com/watch?v=Y91evNsMSr8 

プロの技術やノウハウの保護を

声優の声、音楽家の演奏技術など、様々なノウハウや技術をデジタル化することが可能になりました。

この他にも、デジタル化できるプロフェッショナルの技術があると思います。

それらの可能性も含めて、皆さんも新しいデジタル化やビジネスのヒントを考えてみませんか?

プロフェッショナルのノウハウや技術は、才能だけでなく私たちでは想像もつかないような努力の結晶だと思います。

デジタル化によるビジネスの可能性の広がりとともに、NFTなどを活用した権利保護の仕組みもきちんと確立させていくべきだと私は思います。

今回学んでほしいポイント

  • 声優の「声」に対して、正当な報酬を支払うビジネスの事例やその動向を知る
  • 声優のほかにも、プロフェッショナルの技術をデジタル化しているビジネスの事例を知る
  • ライブの真空パックなどのプロフェッショナルの技術のデジタル化の事例を基に、新しいデジタル化やビジネスを考えてみる

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この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。