大谷翔平選手の大型契約と日米のビジネスモデルの違い/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.3

大谷翔平選手の大型契約と日米のビジネスモデルの違い

昨年のWBCでの大活躍から、結婚発表、さらには史上最速での43ホームラン・43盗塁の達成(2024年9月1日現在)など、話題が尽きない大谷翔平選手ですが、ドジャースへの移籍時には、10年で総額7億ドルという「世界のスポーツ史上最高額」で契約を結んだことも大きな話題になりました。

今回のコラムはこの大型契約の裏にある日米のビジネスモデルの違いについて書いていきます。

後払い契約について

大きな契約金額もさることながら、大半を後払いにするということも話題になりましたよね。目先のお金よりも勝利を優先したいという大谷選手の意向があったと報じられていました。

そしてドジャースは、後払いにより温存できた資金を、山本由伸など一流選手の獲得に繋げていきました。
私がこの後払いの話を聞いて思い浮かべたのは『ドジャースにとってはBNPLと似ているな』ということです。ドジャースの場合はキャッシュフローの他に年俸総額の関係もあるので、単純比較はできませんが、後払いという考え方自体は似ています。

BNPL(Buy Now Pay Later)

「BNPL」とは「Buy Now Pay Later(今買って、後で払う)」の意味で、主にクレジットカード以外の後払いサービスを指します。メールアドレスなどを入力するだけで決済できる手軽さが特徴で、「クレジットカード番号を入力せずに購入できる」「クレジットカードを持たない若年層にも訴求できる」などの特長があります。

アップルが2023年3月にアップルペイでBNPLサービスを始めるなど、米国では利用が拡大しています。日本でも「atone」や「アトカラ」などのサービスがあります。

参照:atoneホームーページ:2024年8月時点
参照:アトカラホームーページ:2024年8月時点

便利である一方、米国では債務を抱える若者の増加が問題になっていますので、今後の動向には注視が必要です。

BNPL (Buy Now Pay Later)とは

概要主な利用層
BNPL
(Buy Now Pay Later)
メールアドレスなどを入力するだけで
決済できる手軽さが特徴の後払いサービス
・クレジットカードを持っていない若年層
・クレジットカード番号の入力に不安があるネットユーザー

大型契約を可能とする球団の収益源は?


さて、話を大谷翔平選手の大型契約に戻しましょう。10年で総額7億ドルという契約は単純計算してみると1年あたり約100億円(1ドルを約150円で計算)になります。この金額は巨人とヤクルトの総年俸額を足しても、大谷翔平選手ひとりにかなわない計算です。

みなさん、メジャーリーグはなぜこのような高額な年俸を支払えるのでしょうか?
ビジネスの観点から考えてみましょう。

横浜ベイスターズの例

ここでDXビジネス検定のeラーニングでも出題されたことがある「横浜DeNAベイスターズ」の収入の例を見てみましょう。「横浜DeNAベイスターズ」は球場との一体運営やグッズ売り上げ、さらにはNFTなどのデジタルサービスにも力を入れており、2023年の1試合あたり観客動員数も過去最高の3万2126人を記録するなど、多角的なビジネスを行っている球団です。

参照:DeNA IR Day 2023:2024年8月時点

この資料によると収益の大きな柱は、「チケット」「グッズ・飲食」「スポンサー(放映権料を含む)」であることがわかります。




DeNA IR Day 2023」p44より引用

日米球団の収入の違いは何か

さて、みなさん考えてください。メジャーリーグには日本の何倍も観客が来ているのでしょうか?グッズ・飲食収入がずば抜けて多いのでしょうか?それともその他に収入源があるのでしょうか?

ちなみにメジャーリーグ全体の1試合当たりの平均観客動員数(約2万9000人)よりも「横浜DeNAベイスターズ」の1試合当たりの観客動員数(約3万2000人)の方が多いようですよ。どうやら答えは別のところにあるようです。

日米の大きな差は放映権料にあります。
米国の放映権料は、日本の約10倍とも言われています。特にドジャースは全米中継の放映権料だけでなく、地域の放送局の放映権料も多額なようです。
そうなると今度は別の疑問が出てきます。なぜ米国の放送局はそれほど多額の放映権料を支払えるのかということです。

広告モデルと課金モデル

皆さんご存知のように、日本の放送のビジネスモデルはNHKを除いて基本的に広告モデルと言われるものです。テレビ広告の市場は細る一方で、娯楽の多様化・視聴方法の多様化の影響でスポンサー企業がお金を出す価値も以前より減っています。

一方米国には有料放送(課金モデル)の文化が根付いています。最近では動画配信サービスとの競争も激しく、メジャーリーグなどの稼げるコンテンツの価値はさらに上がっているようです。

私自身もPPV(ペイパービュー:番組ごとに有料で視聴する仕組み)という言葉を40年前から知っており、日本でも自分の嗜好に合った放送にお金を払う時代が来るはずだと思っていました。

日本の放映権料に関しては、未来のテレビを標榜するABEMAがサッカーワールドカップの放映権料(約200億円との報道もあります)を支払い、全試合無料中継するなどの素晴らしい動きがありましたが、残念ながら放送業界全体での放映権料の規模は米国には及ばないのが現状です。

ファンが支払うお金が直接放映権料に結び付く課金モデル

米国で中心となっている課金モデルは、メジャーリーグに関心のある人が直接お金を払ってくれます。メジャーリーグのコンテンツの価値が上がれば上がるほど放送局にも直接的なメリットがあるということです。しかも売り上げに応じて原価が上がる仕入れモデルではありません。収入が上がれば上がるほど、放送局の利益も多くなっていきます。

日本で中心の広告モデルは、スポンサー企業がお金を払います。スポンサー企業にとっては、番組を多くの人が見てくれて、さらに視聴者がその企業の商品を買ってくれて初めてメリットがあります。しかもスポンサー企業の商品が仕入れモデルだった場合、増えた売上から原価等を引いた利益しか放映権料の原資にならないわけです。

野球放送の視聴者は必ずしもスポンサー企業の商品のファンではありません。メジャーリーグのファンである視聴者が払うお金が直接放送局に入り、それが放映権料としてメジャーリーグに還元される仕組みの方が合理的だと私は感じます。

大谷翔平選手を始めとした日本人メジャーリーガーの活躍は頼もしい限りですが、今後も有力選手がメジャーリーグを目指し、その裏側にアメリカとのビジネスモデルとの差があると知ってしまうと、何だか寂しい気がしてきますね。

今回学んでほしいポイント

  • BNPL (Buy Now Pay Later)の動向を知る
  • 課金モデルや広告モデルの仕組みと違いを知る
  • 身近な出来事のビジネスビジネスモデルに関心を持つ
    (なぜ高額の契約料を支払えるのか?など)
この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です