ビジネスモデルとテクノロジー活用から見たオリンピック/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.2

ビジネスモデルとテクノロジー活用から見たオリンピック

2024年パリオリンピックでは、様々なスポーツの一流選手が見事な成果を見せてくれました。大歓声の中でプレーしている選手たちを見ていると、無観客だった東京オリンピックとの差も感じてしまいました。
皆さんはどの競技の応援をしましたか?

本編初回となる今回のコラムでは、オリンピックやスポーツを「ビジネスモデル」の面と「テクノロジー活用」の面で見ていきたいと思います。

オリンピックの商業化、プロ参加の歴史

若い方はご存じないかもしれませんが、以前のオリンピックはアマチュア選手だけが参加できる大会で、プロ選手の参加は認められていませんでした。
また、公的な費用負担の大きさが問題にもなっていました。

大きな転機となったのが、1984年のロサンゼルスオリンピックです。
この大会では、公的資金を使わずに、スポンサー収入やテレビ放映権料などの民間資金でまかない、最終的に黒字を達成しました。ここからオリンピックの商業化が始まったと言われています。

その後、1988年のソウルオリンピック以降には、プロ選手がオリンピックに参加するようになり、次の表のように華々しい活躍を見せてくれました。

開催地概要
1984年ロサンゼルスオリンピックオリンピックの商業化の始まり
テレビ放映権料やスポンサー収入で大会費用をまかなう
1988年ソウルオリンピックプロ選手が初参加
女子テニスのシュテフィ・グラフ選手が金メダルを獲得
1992年バルセロナオリンピックバスケットボールNBAのプロ選手スーパースター軍団が圧倒的なプレーを見せて、観客を魅了
オリンピックの商業化、プロ化の歴史

パリオリンピックの収入内訳

皆さんは、オリンピック収入のうち、チケットなどの販売がどのくらいの割合を占めていると思いますか?パリオリンピックの収入内訳が公開されているので、紹介します。

  • チケット、ホスピタリティパッケージ ※1 およびライセンス販売 :14億ユーロ
  • オリンピック・パートナー(TOP)※2 :4.7億ユーロ
  • 協賛企業 :12億2600万ユーロ
  • テレビ放映権 :7.5億ユーロ
  • その他の収入 :1億9300万ユーロ



となっています。

参照:パリオリンピック委員会ホームページ:2024年8月現在

チケットなどの販売収入は全体の約3分の1程度で、それ以外は企業の協賛やテレビの放映権料などで賄われていることがわかります。

※1 ホスピタリティパッケージ:観戦チケットに飲食や体験、ギフトなどのホスピタリティサービスを組み合わせたパッケージ。
※2 オリンピック・パートナー(TOP):最高レベルのオリンピック スポンサーシップ。IOCと企業の間で契約を結ぶ。

パリオリンピック収入を支える、ビジネスモデルの概要

それでは、ビジネスモデルの観点から、オリンピックの収入を見ていきましょう。オリンピック・パートナー(TOP)と協賛企業からの収入は、オリンピック収入の観点から見るとライセンスビジネスと言えます。

企業は、協賛金の対価として、オリンピックやオリンピック委員会に関わる知的財産を使用できる権利が付与されます。企業はオリンピックと連動した広告により企業のイメージアップや商品のアピールなどを行うことができます。

例えば表彰式でメダリストたちが自撮りをしている光景が見られました。表彰式には私物のスマホは持ち込めませんが、これはオリンピック・パートナー(TOP)のサムスン電子が出場選手に提供した「Galaxy Z Fold6」というスマホで撮っています。この機種にはAI通訳の機能もあり、選手間の交流にも役立っているようです。

日本オリンピック委員会が提示している「オリンピック等の知的財産に関するガイドライン」に、協賛を行っていない営利団体の禁止事項がわかりやすく書かれていますので、是非参照してみて下さい。
「日本代表選手団のメダル獲得を使用したキャンペーンは禁止」など、具体例も書いてあり興味深いですよ。

参照:オリンピック等の知的財産に関するガイドライン(日本オリンピック委員会:2024年8月現在)

次にテレビ放映権です。オリンピック収入の観点から見ると、やはりライセンスビジネスと言えるでしょう。

放映権料を支払うテレビ局等の代表的なビジネスモデルは日本の民放に見られるような広告モデルですが、昨今では有料会員サービスなどの課金モデルの伸びがこの放映権料を支えていると言われています。これらの詳細は、次回以降のコラムで書く予定にしています。

オリンピックでのテクノロジー活用例

続いてテクノロジー活用の観点です。
私は自分自身もバレーボールをやっており、今回のパリオリンピックでも全日本バレーボールチームを応援していました。残念ながら目標は達成できませんでしたが、世界の一流選手と互角に戦い、懸命にプレーする選手たちに感動を覚えました。

実はバレーボールの試合の風景は、東京オリンピックの時とは違っていたのですが、皆さんは気づかれたでしょうか?
東京オリンピックまではいた、線審がいなかったのです。少し前の一部の国際大会から、ボールのインアウトの判定はすべて自動判定されるようになりました。

サッカーワールドカップでの「三苫の1ミリ」と同じような光景が、バレーボールでは毎試合のように見られるようになったのです。

このシステムは画期的で、判定への納得感や試合のスムーズな進行などの面でも、良いことずくめだと思っています。
そもそも、時速100キロを超える一流選手のボールを1ミリレベルで正確に判定することは人間には不可能だと思います。システムが得意な分野はシステムに任せて、主審はインアウト以外の判定に注力できます。

これは、ビジネスの世界における人間とAIの役割分担にも通じるところがあると思っています。アメリカのプロ野球でも、マイナーリーグでストライクとボールを自動判定するAI審判の実験が行われましたが、メジャーリーグでの採用には至っていないようです。

テニスでは、これまでも一部の大会で自動線審が採用されていましたが、男子プロテニス協会(ATP)は2025年度のATP主催の大会から自動線審を全面採用すると発表しています。

導入システムの具体例

ちなみに、野球のメジャーリーグのデータ分析システムのスタットキャストや、テニスのインアウト判定、サッカーのゴール判定やVAR(Video Assistant Referee)、ラグビーのTMO(Television Match Official)と呼ばれるビデオ判定には、ホークアイというシステムが採用されています。

参照:ソニーホームーページ:2024年8月時点

バレーボールではホークアイに代わって、2023年6月に「Bolt6」というシステムが導入されました。

参照:国際バレーボール連盟ホームページ:2024年8月時点

陸上や水泳の判定にもAIなどが活用されているようです。
皆さんもご自身で関心のあるスポーツなどのテクノロジー活用の状況を調べてみると面白いですよ。

選手への誹謗中傷問題

大会を通じて、若手選手の台頭なども多かった中、超一流選手でさえ勝負どころでミスをしてしまう姿を見て、フィジカル面、メンタル面のコントロールの難しさも感じました。
悔しい思いをした選手もたくさんいたと思いますが、その悔しさをバネにして、さらに努力をしていく姿に私は感動とパワーをもらえる気がします。

そんな選手たちへのネット上での誹謗中傷は本当に悲しくなります。
国際オリンピック委員会(IOC)はパリオリンピック・パラリンピックに向けて、AIを活用したSNS監視システムを導入しましたが、完全には防ぎ切れなかったようです。

個人的には、発信する前にAIが警告をする、選手が誹謗中傷コメントを見なくて済むなど、日本発の安心なAI・SNSが出てくることを期待したいです。

私は、挫折を知っている人間こそ、強くそして優しくなれると思います。
見事な成績を収めた選手だけでなく、力を発揮できなかった選手や失敗をしてしまった選手にも、それまでの努力に敬意を表して、今後の人生を応援できる社会になってほしいと切に願います。

今回学んでほしいポイント

  • 自分の関心事をビジネスの観点から見てみる
  • 自分の身の回りにあるシステムの活用例に関心を持つ
  • 未解決の課題の解決策を自分なりに考えてみる
この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。

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