
自分の強みや仕事をデジタルで加速する~ビジネスの4要素とデジタル化~
前回は、「個人がデジタルで得意分野を強化し差別化を図る」というお話をしました。
今回は、「ビジネスの4要素」においてデジタル技術を活用することで得られるメリットを紹介します。
個人だけではなく会社の仕事にデジタルを活用することも含めて考えてみたいと思います。
ビジネスの4要素
私はビジネスには4つの重要な要素があると考えています。それは、
①商品・サービス、②販売チャネルと顧客、③マーケティング、④オペレーション
です。もちろんビジネスを分析する切り口は色々とありますが、上記のようにシンプルに4つに分けると全体像が把握しやすくなります。
①商品・サービス
たとえば食品、衣料品、生活用品のような商品、レストラン、映画、コンサートなどのサービス、デジタルを使った商品・サービスでは動画配信サービス、音楽配信サービス、オンラインゲーム、オンラインニュースサイトなどがあります。
商品・サービスはそれを必要とする消費者(顧客)が欲する価値そのものであり、顧客の課題を解決し、満足感を提供するものでなくてはなりません。
基本的には品質、価格、差別化要素などが重要なポイントとなります。
差別化要素としては「自分だけが持っている」などの希少性もあげられます。
限定品、レア商品、カスタマイズ商品などです。
②販売チャネルと顧客
販売チャネルとは商品やサービスを顧客に届ける販路のことです。
リアルではスーパー、百貨店、専門店、量販店などで、デジタルの場合はECサイト、D2C(直販)サブスクリプションサービスなどがあり、「何を、どこで、誰に届けるか」という観点です。
販売チャネルは従来からある実店舗の他、ECサイト、サブスクリプションサービスなど多様化しています。
顧客に関してもデジタル化により、入手できる商品が多様化し、その結果商品・サービスを届ける顧客の分類はより細分化しており、それぞれの顧客体験を最適化することが重要です。

③マーケティング
マーケティングとは商品・サービスを顧客に認知してもらい、購入意欲を高める活動を指します。
リアル店舗の場合は広告(新聞折込や雑誌、テレビCM)、店頭ポップなどが主流でしたが、デジタルの時代にはスマホプッシュ通知、SNS、電子メールマーケティング、ウェブサイトを検索結果の上位に表示させるためのSEO(サーチエンジン最適化)など、多岐にわたる手法が追加されています。

④オペレーション
ビジネスを円滑に運営するための仕組みやプロセスです。
商品開発や販売・マーケティングを支える日々の業務全般を指し、生産、物流、在庫管理、カスタマーサポートなどが含まれます。
4要素それぞれの<アナログ>と<デジタル>比較
これらの①から④の要素に、デジタル技術やデータを活用することで、効率性を高めたり、顧客満足度が上がったりして新たな市場を開拓するチャンスが生まれます。
以下4つの要素ごとに、デジタル以前の手法を「アナログ」、デジタル時代に変化した活用方法について「デジタル活用」と表記してご紹介します。
①商品・サービス
<アナログ>
アナログでの商品開発では、顧客からの要望は一般的に対面でのアンケートや店舗で直接顧客の声を聞く必要があり、収集できる数も限られ、人手による集計や分析に時間が掛るため、商品やサービスの改良や新規商品の開発に時間がかかるのが一般的でした。
しかし、これでは競争が激しい市場でスピード感を持って対応するのが難しく、ビジネスチャンスを生かせない可能性が高くなります。
<デジタル活用>
デジタルツールを活用すると、SNSなどのデジタルツールでリアルタイムに多くの顧客の声を直接集めデジタルとデータで集計分析ができます。
たとえば、個人の場合は、料理好きの主婦がレシピブログを運営し、新しいレシピ本を出版する場合、コメント欄やDMでのフォロワーからの意見を反映させて、従来より迅速に「今求められているレシピ」を提供できます。
また、企業の場合は、購入型クラウドファンディング(新しい商品の買い手を募り、資金を集めてから商品化して資金供出者に商品を渡すスキーム)を活用して新しい商品を試作段階から販売することで、ニーズを正しくつかむことができ、リスクを抑えつつ市場の反応を見ながらの改良が可能となります。
②販売チャネルと顧客
<アナログ>
従来の販売チャネルは、人手が必要な実店舗や電話での対応が主で、また消費者(顧客)は店舗に行けるエリアに限定される、などの地理的な制約がありました。
また、顧客に直接会わないと信頼関係を築くのが難しいとされていました。
<デジタル活用>
ECサイトやSNSを使えば、顧客は全国どこからでも商品を発注、購入でき、店舗側は販売エリアを広げられます。
また、実店舗がなくても販売チャネルを構築できます。
たとえば、自宅で手作りのアクセサリーを販売している主婦なら、SNSを活用して全国にファンを増やし、ECサイトで販売を開始すれば、地元だけでなく広範囲の顧客を獲得できます。
さらに、Zoomを活用したオンライン相談会を開けば、遠方の顧客とも直接コミュニケーションを取り、信頼を築けます。SNSの活用やECサイトでの販売やZoomでの商談は、個人だけではなく企業でも活用できる比較的簡単な方法です。
③マーケティング
<アナログ>
従来のマーケティングは、高い予算でのテレビCMや新聞に折り込まれたチラシといったマス広告が中心で、広く情報を届ける一方で、狙った層にピンポイントでリーチするのが難しいという課題がありました。
また、広告の効果測定も困難でした。
<デジタル活用>
デジタルマーケティングでは、SNS広告や検索エンジン広告を活用して、特定のターゲット層にピンポイントで情報を届けられます。
たとえば、ハンドメイドのベビー服を販売している主婦が、Instagramで「育児中のママ」に絞って広告を出せば、少ない費用で効果的に見込み顧客にリーチできます。
さらに、広告のクリック数や購入率をリアルタイムで把握できるため効果測定が容易で、成果を見ながら改善を重ねていくことが可能です。
これも個人だけでなく企業でも活用できる有効な方法です。
④オペレーション
<アナログ>
従来のオペレーションは、受発注や在庫管理も人手による作業が多く、担当者の経験やスキルに大きく左右されていました。ヒューマンエラーが起こりやすく、担当者の習熟度によって業務効率が低下するという課題もありました。
<デジタル活用>
クラウドサービスやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのツールを導入すれば、ヒューマンエラーが起こりにくく、データやプロセスを一元管理できるためチーム内での情報共有や作業の自動化、人的コストの削減が期待できます。
たとえば、家庭菜園で栽培した野菜を販売する場合、Googleスプレッドシートを使って在庫や注文を自動的に集計すれば、手動での記入ミスを防ぎながら、少人数でも効率よく運営可能です。
さらに、LINE公式アカウントなどのチャットツールを活用して顧客対応を行えば、24時間いつでも問い合わせに応じられ、顧客満足度を高めつつ自身の負担を軽減できます。
個人による販売だけでなく、企業での商品販売に関するオペレーションもこれらのツールで効率化できます。
このように、4要素をアナログ→デジタル化することで、ビジネスの基盤を強化し、より柔軟かつ迅速なビジネスが可能になります。
この4要素をデジタル化することと自分の得意分野(個人の趣味や得意なこと、または会社での業務)を掛け合わせることで、個人や小規模企業でもビジネスを有利に行うことが可能になります。
個人の得意分野や会社の仕事をデジタルで強化する
アナログ型のレッドオーシャンビジネスから抜け出し、デジタルを活用した新しいやり方(ブルーオーシャン)を見いだし、オリジナリティを出すことが成功のカギとなります。
比較的簡単にできる「個人の得意分野×デジタルツール」の事例や仕事でも活用できる「会社の仕事×デジタルツール」の事例を紹介します。
<個人の得意分野×デジタルツール>
1.得意な料理をオンライン講座に展開する
料理上手な人であれば、Zoomなどを利用してオンライン料理教室を実施することが可能です。
地元だけでなく全国の生徒を対象にでき、SNSでレシピや調理過程を紹介してファンを増やすことで、安定した集客が期待できます。
得意なものがスポーツやヨガなどであればこれと同じことができます。
YouTubeやSNSを探してみてください。
たくさんの事例を見つけることができ、参考になるはずです。
2.ハンドメイド作品をECサイトで販売する
手芸やアクセサリー作りが趣味なら、個人向けのECサイトを開設して商品を販売するのがおすすめです。
個人でECサイトを開設するのが難しければ、まずInstagramやYouTubeを使って作品の世界観を発信し、興味を持った人を自分が出品しているminneやCreemaなどの個人販売マーケットプレイスへ誘導することもできます。
また、メルカリ内に自分のショップを開設するという方法(メルカリShops)もあります。
さらに、購入者のデータを分析してリピート率を高める仕組みを構築すれば、安定収益を確保できるようになります。

3.農作物のブランド化を進める
小規模な家庭菜園や農業でも、SNSやYouTubeで成長過程を発信することでストーリー性を持たせ、ブランド力を高めることができます。
共感した顧客との直接取引を中心に展開すれば、高付加価値の商品として販売可能です。
たとえば、無農薬野菜や旬のセット商品をオンラインで定期購入できる仕組みにするなど、継続購入につながる工夫が鍵となります。
こちらもSNSや検索エンジン、サーチ型生成AIで探してみてください。
<会社の仕事×デジタルツール>
4.業務を改善する
企業に勤める人も、デジタルを活用して業務効率を上げることで差別化できます。
たとえば、ExcelのマクロやRPAを活用し、ルーチン業務を自動化することで生産性を向上させたり、データ分析スキルを学び、業務改善の提案を行うことで社内での評価を高めたりできます。
5.プレゼン資料作成を効率化する
CanvaやOpenAIが提供するGPT for Slidesなどのデザインツールを活用し、テンプレートやAIによるデザイン補助を活用することで、短時間で質の高い資料を作成できます。
データビジュアライゼーションツールを取り入れることで、説得力のあるプレゼンテーションを実現できます。
6.社内コミュニケーションを円滑にする
SlackやMicrosoft Teamsを活用し、リモートワークやハイブリッドワーク環境でもスムーズな情報共有を実現できます。
プロジェクト管理ツールを導入することで、業務の進捗を可視化し、効率的なチーム運営が可能になります。
まとめ
ビジネスにおいて、商品・サービス、販売チャネルと顧客、マーケティング、オペレーションをデジタル化することは、市場拡大や業務効率化への大きな一歩です。
自身の得意分野にデジタルツールを掛け合わせることで、競合の少ない市場を創出し、独自のポジショニングを確立できます。
企業においても自分の仕事とデジタルツールを掛け合わせることで強化することができます。
スタートは小さな試みで十分です。
たとえばSNSでの情報発信をしてみる、週末に無料ツールに触ってみるなどです。
その一歩がビジネスを成長させる原動力となります。
<vol.3に続く>

DXビジネスアンバサダー
岸 晶子
きし あきこ
都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てが一段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける。