「人材のブルーオーシャン戦略」:強みをデジタルで磨く/「強み」×「デジタル」で 何歳からでも仕事に活かせる、DX的キャリアの作り方 Vol.1

はじめに

世界ではデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進行しています。
2024年にはソーシャルコマースの台頭や、オンライン小売における人工知能(AI)や拡張現実(AR)の利用が増え、顧客のショッピング体験が向上しています。

例えば、アメリカの大手ECサイトでは、AIを活用したパーソナライズドな商品レコメンドをしていますし、イギリスの衣料販売サイトではAR(拡張現実)技術を活用したバーチャル試着システムを導入し、オンラインショッピングでも実店舗に近い購入体験を実現しています。
また、中国のライブコマースプラットフォームでは、インフルエンサーがライブ配信を通じて商品を紹介し、視聴者がその場で購入できる仕組みで若者を中心に人気を集めています。

日本国内では大企業を中心にデジタル化やDXが進んでいるものの、中小企業や個人事業主ではまだ十分とは言えない状況だと思います。
ですが進んでいる例を挙げると、旅行先での観光や買い物でデジタル化の進展を実感することが増えてきました。
例えば、観光地ではデジタルガイドシステムや電子決済対応のレジが増加し、飲食店ではタブレット注文が一般的になりつつあります。

またスマートフォンをかざすだけで入場できるデジタル入場チケットや、AIによる観光案内サービスも増加しています。
前述のライブコマースでは、日本ではユニクロが「LIVE STATION」という、ライブ配信される動画を見ながら、気になった商品をその場で購入できるサービスを提供しています。

参照:ユニクロ https://www.uniqlo.com/jp/ja/livestation/recommend

しかし、あらゆる観光地や店舗、中小企業までデジタル化やDXが進んでいるという実感は沸かないのが現実ではないでしょうか。
日本国内では、一部では少しずつ進んではいるものの、国全体では道半ばという状況だと思います。

私は、このようにデジタル化やDXが十分に進んでいない日本では、多くの人がそれに興味を持ち、学習して、自分の身の回りのことや自分の仕事からデジタル化やDXをしていくことが必要だと思います。
世の中のデジタル技術が進んで、世界的にこれらの技術が活用されているこのデジタル化の流れを好機と捉え、私たちも個人として自身のキャリアやスキルを磨くことが重要ではないか、と考えているのです。
デジタル化やDXに関連するスキルを習得し、データ分析やビジネス発想力を身に付けることで、他者との差別化が可能となると思うからです。

例えば、個人事業としてフリーランスでマーケティング業務を行うマーケターであれば、SNSやデータ分析スキルをオンライン講座で学び、提供するスキルをデジタルで強化してこれまでの顧客以外の新規顧客を増やす機会を増やすことができるでしょう。
また、地方の農家がECサイトの立ち上げ方法とSNSでの発信方法を学び、自らの農産物をオンラインで販売することができれば、ネット販売により地域外からの売上を増加することができるでしょう。
このような事例は多くあります。

私はこのように新しいスキルを身に付け、これまでとは異なる領域のキャリアを手に入れることを「人材のブルーオーシャン戦略」と呼んでいます。
他者がまだ気づいていない、または手を付けていない分野で自分の強みを活かすことで、競争のない市場を切り開くことが可能だと考えています。
デジタル化やDXが進む時代だからこそ、自分のスキルを磨き、新たな可能性を見出す時期に来ているのではないでしょうか。

「人材のブルーオーシャン戦略」:強みをデジタルで磨く


本連載の第一回では、「人材におけるブルーオーシャン戦略」の意味を解説し「自分の強み」をデジタルで強化し、企業で新しい仕事を任せられたり、個人で新しい仕事を得る能力の有効性について考えます。

本来のブルーオーシャン戦略の意味は、「差別化した価値を得て新しい競争のない市場を開拓する」という経営戦略モデルのことで、簡単にいうと「従来の市場での過当競争から抜け出し、新しい価値を提供することで、他者との差別化を図る」という考え方です。
これを「人材のキャリアアップ」に適用すると、3つの要素が鍵となります。

(1)現在の自分の得意分野の棚卸しをする
→自分が知っていること、できることなど、自分の強みを明らかにする。

(2)価値を高め、差別化する項目を作る
→自分の得意分野を把握したら、付加価値をつけるために、顧客価値やデジタルビジネスモデルを学ぶことで他者が強くない新しいキャリア分野を構築する

(3)世の中が変化し続ける中で、顧客価値を正確に把握することで発生する新しい市場に自分が提供できる価値を提供し、絶えず自分のキャリアに価値を持たせる。

以下、具体的に説明します。

(1)現在の自分の得意分野の棚卸をする
まずは、自分自身の強み、興味のある分野を把握します。例えば、私のことでいうと
・数年前からリスキリングしているデジタルやデータ、ビジネスモデルや昔従事していた情報システム関係
です。

これらはリスキリングの領域としては王道なものですが、これ以外でも、キャリア上の価値になるものもあります。たとえば私の場合は、

・3人の子供の教育や子育て、実両親や義実家の両親の介護や引き継いだ農業、農地で採れる柚子のマーマレード作りなど。
キャリア上の価値の種は、改めて棚卸してみるといろいろあると思います。

(2)価値を高め、差別化する項目を作る
最近はZoomのようなオンライン会議ツールや、Google Workspace製品(ドキュメント、スプレッドシート、Googleフォームなど)、さらに強力な生成AIツールであるChatGPTなどのソフトウェアが、基本的に無料もしくは低コストで利用できる環境が整ってきています。

例えば、コロナ禍を境に地方に移住した個人トレーナーが、Zoomを活用してオンラインパーソナルトレーニングを提供するプログラムを開発しました。
このトレーナーは、セッション中にAIを活用して、トレーニングデータを記録・分析し、次回のプランを個別に最適化するサービスを導入、地方にいながら全国から顧客を集め、顧客数と売上を伸ばすことに成功しています。

このように、身近なデジタルツールを活用し、自分のスキルや価値と組み合わせることで、新たなキャリアチャンスを見つけることができます。


自分自身の強みを最大限に活かせる、かつ他者がまだ十分に進出していない分野を開拓し、独自のポジションを築くことが、デジタル時代における成功のポイントとなるのです。

(3)世の中が変化し続ける中で、顧客価値を正確に把握することで発生する新しい市場に自分が提供できる価値を提供し、絶えず自分のキャリアに価値を持たせる
最後に重要なのは、世の中の変化を捉え、顧客価値の変化を正確に把握することです。新聞や雑誌、ネット記事、書籍を読むことも有効ですが、もっと有効なのは、多くの人の話を聞くことです。
会社員として働いている場合は、社内や取引先、顧客などのニーズを生で聞くこと、また、消費者という立場ならば買い物時には、デジタル化が進んだか、ネットでは何が売れているかなどを分析すれば、世の中の変化が分かってきます。

戦略の実践で、新しい自分のキャリアを切り拓く

では、どのような価値を構築して、新しいキャリアにつながるのか具体例を紹介しましょう。
【1】Aさんは3人の育児経験を活かし、子ども向けの学習アプリを開発することで、「人材のブルーオーシャン戦略」を実践しました。
親目線での「子どもが集中しやすい学び方」をコンセプトに、AIを活用したパーソナライズ学習機能を会社に提案しました。育児経験を強みに、デジタルスキルを習得したことで、新しい自分の価値を提供できました。

【2】Bさんは実家の農業を継ぎ、農地で採れる特産品をデジタルツールで販売促進しました。
InstagramやECサイトを活用し、柚子を使った自家製マーマレードを全国に販売。
地元農業という強みをオンラインで差別化することで、新しい自分の価値を提供できました。

【3】Cさんは実家や義実家の親の介護経験を活かし、高齢者向けのデジタルサポートサービスを会社に提案。
LINEやZoomの使い方を教える講座や、AIを活用した健康管理アプリを考えました。
介護とデジタルスキルを掛け合わせたサービスは、高齢化社会に重要な価値を提供できました。

【人材のブルーオーシャン戦略】は、自分の強みをデジタルで強化し、顧客価値の変化を正確に把握することで、新しい自分のキャリアを切り開く能力を身につけることがキーになります。
本連載では、これらの能力の身に付け方をより具体的に考えていきたいと思います。

vol.2に続く

この記事の著者

DXビジネスアンバサダー

岸 晶子

きし あきこ

この記事の著者

都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てが一段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける。