<自分の苦手>を深堀りして己を知る
毎日の家事や畑仕事、義実家の手伝い、母の面会という生活のルーチンの中に、DXの勉強と検定受検が自然に組み込まれて3年ほどたったころ、とある知り合いの講師からリアルでのDXセミナーのサブ講師をしてみませんか、というお話をいただきました。
この時点で「ITパスポート」取得、「DXビジネス検定」もプロフェッショナルレベルを取得していて、実力がついてきている実感はありました。
しかし、正直なところ人前で話をする仕事は私の想定にはなく、一回はお断りしようかと迷いました。
ですが、せっかくお声がけ頂いたことでもあり、「ここで尻込みしていては何のために勉強してきたのか分からない、今後仕事につながることなどなくなってしまうだろう」、という気持ちも沸いてきて、かなり迷ったのですが挑戦してみることにしました。
そのセミナーには以前に一度、受講者として参加したことがありました。
内容はDX関連の知識をグループワークを通して身に着けていくというものです。
メイン講師の方はすべてのグループのアウトプットの講評を、複数いるサブ講師は、それぞれのグループが各テーマについてディスカッションする際、それらを見て回りアドバイスをしたり、アイデア出しを一緒にしたりする、というのが役割でした。
初めて人前で自分の実力が試されるタイミングが来た、と思いました。
「サブ講師を引き受けると決めたからにはしっかり務めなければ」と私は緊張しながら準備をしました。
具体的にはDX関連の本や、ビジネスモデルの本を読み返して復習し、DXを使った新しいビジネスモデルを考えるシミュレーションをしたり、キーワードを覚え直したりしました。
自分が受けた時のセミナーの流れも思い返し、できる限りの準備をして当日を迎えました。
なぜ失敗したのかー原因を考える
ところが結果は大失敗でした。
いざセミナーが始まると、私はほとんど何もすることができなかったのです。
今思い出しても、その時の自分に歯がゆさと悔しさを感じます。
とにかく各グループのディスカッションに入っていくことができませんでした。
それぞれのディスカッションを聞いても、何か突っ込んで質問をしたり、会話を促すこともできませんでした。
また、最後に参加者の皆さんから発表されたビジネスモデルを講評することもできませんでした。
セミナーが終わった後、ひどく落ち込みながら何が原因だったのかを考えました。
もしかしたら今後、人前で話す仕事をもらえるチャンスは無いかもしれませんが、自分に何が足りなかったのか、どうすべきだったのかを分析する必要がありました。
自分の弱点を知らなければ、今後どう動くべきか考えることはできないと思ったのです。
まず完全に気後れしてしまっていました。
DXの知識は私の方があったと思うのですが、長年社会で働いている受講者の皆さんを見た途端、主婦である自分に引け目を感じてしまったのです。
外で働いている方々に対して、主婦という立場にいる自分がコンプレックスを感じていることを、改めて自覚しました。
またセミナーが始まってから初めて知ったのですが、受講生の皆さんの中には、既にそのセミナーの受講経験が何度かある方が何人もいました。そんな方が受講生としていらっしゃるのに、自分がサブ講師で良いのか、とやはり引け目に感じてしまいました。
他に、介入せずとも皆さん盛り上がってディスカッションが進んでいたので入りにくかった、という場面もありましたが、振り返ってみると、自分の中では上記の二つの理由が大きく、重いものとして心に残りました。
セミナー後の懇親会で改めて皆さんとお話しして、私の経歴、30年以上専業主婦をし、子育てを終えた後、50歳過ぎからリスキリングして外で働こうとしていることが、自分が思っていた以上にインパクトがあったようです。皆さんが驚きながらも応援してくださって、少し元気が出ましたし、また頑張ろうと思えました。
けれども、この時の体験は後々まで私の中で自分の失敗として残りました。
今少しずつ仕事をいただくようになっても、書く仕事ばかりで直接人前で話す仕事をできずにいるのは、この時の体験が原因だと感じます。
我ながら情けないな、とは思うのですが。
リスキリングの障壁になるものの一つに個々人のマインドセットがあります。例えば、「DXに対して、長年会社で働いていた方が特に勉強しなくても何となくわかったつもりになって、そのために真剣に学ぼうとしない」、などがこれにあたります。
マインドセットの大切さ
私の場合は、この逆でした。
何年もDXについて勉強をし、資格も取っているのに、まだ主婦である自分に負い目を感じて自信が持てずにいたのです。
知識はありますから書くことはできます。
けれども直接反応が返ってくるセミナーでは、怖くて自分から話すことができなかったのです。
新しいことを始めるとき、一番の障壁は本人の中にある後ろ向きな気持ちだと思います。
「この年からじゃもう遅い」
「自分とは関係ない」
そして
「無理無理」と最初からあきらめてしまう。
それでは先には進めません。
自分の中の障壁を乗り越えて一歩を踏み出すことは、苦痛も伴いますが、それを超えた先の景色は踏み出した人にしか見えないものだと感じています。
今迷っている方には、是非小さなステップでも前に向かって歩みだしてほしいと思います。
私も苦手意識は今でもありますが、一度や二度の失敗で落ち込む時間はないので、準備をしてまた人前で話す仕事に挑戦したいと思っています。
<vol.6に続く>
DXビジネスアンバサダー
岸 晶子
きし あきこ
都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てが一段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける。