ゴジラ-1.0と日本のIPビジネス/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.7

ゴジラ-1.0と日本のIPビジネス

アメリカのアカデミー賞の視覚効果賞を受賞した山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が、テレビの地上波で放送され、次回作の作成も発表されましたね。

アカデミー賞は、これまでは名だたるハリウッド映画が受賞するのが常でしたが、日本映画の受賞は史上初の快挙でした。

今回は「ゴジラ-1.0」を例に、技術とビジネス のかかわり方や、日本のIPビジネスの現状や可能性について 書きたいと思います。

大迫力のVFX(Visual Effects)


「ゴジラ-1.0」でもVFX(Visual Effectsの略で、視覚効果という意味を持っています)がフル活用されています。

実写とコンピューターグラフィックスを組み合わせることにより、ゴジラの登場する場面は大迫力シーンの連続でした。

これだけ迫力のあるVFXを、ハリウッド大作映画の1/10以下とも言われている予算と人数で作り上げた山崎貴監督とVFXを手掛けた映像制作会社「白組」も大いに注目されています。

コンピューターグラフィックスだけに頼らず、セットを可能な限り共用したり、古典的な特撮技術を併用するなど、知恵を絞って撮影されたそうです。

若手VFXアーティストの活躍


特に海のシーンは印象に残りました。

本当に違和感のない大迫力なのです。

そんな海のシーンを担当したのが、「白組」の一員で、まだ25歳(当時)の野島達司氏です。アメリカでの表彰式にも参加されていました。

株式会社ナターシャが運営する「映画ナタリー」というサイトに、野島達司氏へのインタビュー記事が掲載されています。

彼は独自のアイデアを形にするだけでなく、監督がOKを出したものにすら、納得できないと自分で修正して監督に提示したといいます。

彼の才能はもちろんですが、若手のアイデアを積極的に取り入れる山崎貴監督の度量の大きさや、DX時代に私たちが目指すべき組織や上司の姿も感じることができます。

是非、参照してみて下さい。

参照:映画ナタリーのインタビュー記事:2024年11月時点
https://natalie.mu/eiga/column/566410 

視覚効果ありきの映画ではない「ゴジラ-1.0」

山崎貴監督と野島達司氏の話で共通しているのは、「ゴジラ-1.0」がVFXの技術ありきではなく、「ゴジラ-1.0」という映画の中でVFXという技術をどう役立たせるかを考えている作品になっているということです。

そう考えるとアカデミー賞の視覚効果賞を受賞の意義はまた違った意味でも評価できると思います。

強みや本質はあくまで物語の中にあり、「ゴジラ-1.0」という物語の中で、VFXがどのように効果的に使われているかが評価されているということです。

「プロダクトアウト」「マーケットイン」という考え方がありますが、「ゴジラ-1.0」の受賞は、私たちがビジネスを考える際にも、技術ありきのビジネスではなく、顧客価値のために技術を活用することの大切さを、私たちに教えてくれていると思うのです。

IPビジネスとは


さて、話をIPビジネスに移しましょう。

特にデジタル技術者の方はIPというと「Internet Protocol」を思い浮かべることも多いと思いますが、ビジネスの世界でいう「IPビジネス」のIPとは知的財産を英語で表す「Intellectual Property」の略で「知的財産」を生かしたライセンスビジネスなどをいいます。

映画やアニメ、ゲームなどのコンテンツの販売やキャラクターのグッズ化などが代表的な例です。

IPビジネスとは

概要主な例
IPビジネス (Intellectual Property)「知的財産」を生かしたライセンスビジネスなどを指す映画やアニメ、ゲームなどのコンテンツの販売やキャラクターのグッズ化など

日本のIPビジネスの実力

実は日本のIPビジネスは、とても大きな実力とポテンシャルを持っています。

アメリカのTITLE MAX社が発表した世界のIPビジネス総収益ランキングでは、トップテンの半分を日本のキャラクター等が占めているのです。

トップテン以外にも、13位に「ガンダム」、15位に「ドラゴンボール」、17位に「北斗の拳」、20位に「ワンピース」が入っています。


世界のIPビジネス総収益ランキング
TITLE MAX社のホームページ(https://www.titlemax.com/discovery-center/money-finance_trashed/the-25-highest-grossing-media-franchises-of-all-time/)を参考に筆者が作成

順位キャラクター等
1位ポケモン
2位ハローキティ
3位くまのプーさん
4位ミッキーマウス
5位スターウォーズ
順位キャラクター等
6位アンパンマン
7位ディズニープリンセス
8位スーパーマリオ
9位少年ジャンプ
10位ハリーポッター

参照:TITLE MAX社の記事:2024年11月時点
https://www.titlemax.com/discovery-center/the-25-highest-grossing-media-franchises-of-all-time/ 

ゴジラの商品化の権利を買い戻した東宝

戦後間もない1954年にスクリーンに初登場したゴジラは、50周年にあたる2004年の「ゴジラFINAL WARS」を最後に国内の映画シリーズが終了しました。

その後東宝はゴジラの海外での商品化の権利をアメリカの会社に売り渡しました。しかし2016年の「シン・ゴジラ」のヒット以降に商品化の権利を買い戻し、ゴジラのIPビジネスに本腰を入れる姿勢が示されました。

「ゴジラ-1.0」は北米でも国内の興行収入である約76億5000万円を上回る約84億3000万円の大ヒットを記録し、アカデミー賞の視覚効果賞受賞により、今後の海外展開にも加速がつく可能性も大きくなりました。

ゴジラビジネスの今後の拡大の方向性

ゴジラビジネスの今後の拡大の方向性は大きく二つあると思います。

一つはIPビジネスの拡大、もう一つは北米以外での海外展開です。

日本の映画市場は飽和状態で、これ以上の伸びはあまり期待できないのが現状です。

「一般社団法人日本映画製作者連盟」の発表によると、2023年の国内の映画興行収入は約2215億円で20年前(2003年)の約2033億円から大きな伸びはありません。

邦画の興行収入こそ倍以上に伸びていますが、全体としては頭打ちの状況に見えます。今後の映画界の発展を考えると、海外での興行収入増は必要な戦略ですし、そのポテンシャルも持っていると思います。

「ゴジラ-1.0」は吹替えなしの字幕版のみで北米での興行成績約84億3000万円の成功を収めましたが、その他の海外への展開を考えると、生成AIを活用した多言語対応も考えてよいのではないでしょうか。

参照:一般社団法人日本映画製作者連盟:2024年11月時点
http://www.eiren.org/toukei/data.html 

参照:The Hollywood Reporter:2024年11月時点
https://hollywoodreporter.jp/movies/73772/

Voice Engine(ボイスエンジン)の登場

2024年3月に、オープンAI社が話し手の音声を外国語に吹き替えることもできる「Voice Engine(ボイスエンジン)」を発表しました。

話し手の声のトーンや感情も再現しています。

オープンAI社のホームページでは、日本語への翻訳のサンプルの音声も聞くことができます。

多少の違和感はありますが、話者本人があたかも日本語で話しているように聞こえます。

是非、下記のURLから参照してみて下さい。

参照:オープンAI社のホームページNews March 29, 2024:2024年11月時点
https://openai.com/blog/navigating-the-challenges-and-opportunities-of-synthetic-voices 

生成AIが拓く多言語化の新たな可能性

「ゴジラ-1.0」では主演の神木隆之介さんをはじめとして、日本の名だたる俳優陣が素晴らしい演技を披露してくれています。

「Voice Engine(ボイスエンジン)」等を活用して、彼らの肉声が多国語で全世界に配信される様子を想像しただけでワクワクします。

識字率が低く字幕では対応できない海外市場への広がりも期待できます。

他人のなりすましなどの悪用リスクもあるため、まだ一般公開はされませんが、今後、実用化される時がくれば、映画そのものに使わなくても、各種PRやIPビジネスの展開での活用も考えられると思います。

生成AIの無断利用の問題

一方で、生成AIの脅威に対抗してハリウッドの脚本家や俳優が長期のストライキを行ったことも記憶に新しいのではないでしょうか。

日本では声優たちが自分たちの商売である「声」が、無断で生成AIに使われている現状に対して抗議しています。(参照リンクの『NOMORE無断生成AI』の動画をぜひご覧ください)

日本の著作権法の課題もあるのですが、彼らの話を聞いていると、とても現状のままにしておいてはいけない気持ちになります。

仕事を奪うためではなく、市場そのものを拡大するために、彼らのようなプロフェッショナルに、適正な報酬を払う仕組みが少しでも早く浸透して欲しいと心から願っています。

参照:『NOMORE無断生成AI』vol.1:2024年11月時点
https://www.youtube.com/watch?v=cPT13DzDzrc

今回学んでほしいポイント

  • 技術そのものではなく、顧客価値の創出に技術を生かすことが大事
  • 東宝が映画だけでなくIPビジネスの拡大戦略を取っていることを知る
  • 日本のIPビジネスのさらなる海外市場での展開を考える

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この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。