デジタル化社会における多様な働き方と価値の創造/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.6

デジタル化社会における多様な働き方と価値の創造

前回のコラムでは、ビジネス知識を基にしてデジタル技術やAIによって「今までできなかったこと」を活用し、新規ビジネスの創出や社会課題の解決などが可能になったという趣旨のことを書きました。

今回のコラムでは、「デジタル技術やAIによって可能になったこと」の具体例として、デジタルを活用した多様な働き方と社会課題解決の例を紹介したいと思います。

ギグワーカーやスポットワーカーとして、自分の働きたい時間だけ働ける仕組み

まずご紹介するのは、ギグワーカーやスポットワーカーなど、自分の都合の良い時間に働くスタイルです。アプリなどによりこのような働き方が可能になりました。

ギグワーカーは、短期間や単発の仕事を請け負う形態で、業務委託形態を取ることが多いです。身近な例としては、Uber Eatsの配達員が挙げられます。

スポットワーカーは、隙間時間のバイトなど、企業や店舗のアルバイトとして短時間または短期間働くようなスタイルです。

現在、スポットワーカーとして登録している人は2,000万人を超えたとも言われています(日本スポットワーク協会調べ。2024年5月末現在。メルカリによる発表資料より)。

参照:メルカリ プレスリリース (2024年6月5日発表)
https://about.mercari.com/press/news/articles/20240605_mercarihallo_500/

アプリを活用してドライバーとして働くハロートーキョーの「GO Crew」

次に、スポットワーカーとは異なる、アプリならではの働き方として、日本交通グループのハロートーキョーが提供する「GO Crew」を紹介します。

「GO Crew」とは、タクシーアプリ「Go」を通じて、目的地が入力された予約にのみ対応するタクシードライバーです。

普通のタクシーのように乗客を探す必要がなく、行き先も決まっているため、ナビゲーションに従って運転するだけで大丈夫です。

決済はGO Payというアプリ決済で行われるため、現金のやり取りもありません。

乗車成績による歩合制ではなく、時給制のため、乗車依頼がなくても安心です。

また、副業も可能で、自分の都合の良い日時だけ登録している人も多いようです。

「GO Crew」(ハロートーキョー)の概要

事例の概要タクシーアプリ「Go」を通じて、
目的地が入力された予約にのみ対応するタクシードライバー
ポイント・決まった時間だけ勤務すればよく、時給制のため、成績を気にする必要が無い
・決まった目的地まで顧客を運ぶ以外は、余計な仕事を覚えなくて済む
・副業OKなので、他の仕事の空き時間で働く人もいる

参照:ハロートーキョーホームーページ:2024年10月時点
https://hello-tokyo.com/parttime/

クラウドソーシングがもたらした新しい働き方

次に不特定多数の群衆(クラウド)と調達(ソーシング)を組み合わせた造語で、物品やサービスを調達したい企業と、それを提供できる個人を仲介するサービス「クラウドソーシング」をご紹介します。

クラウドソーシングの「クラウド」は、英語の「crowd(群衆)」で、クラウドコンピューティングやクラウドサービスなどで使われる「cloud(雲)」とは別の言葉なので、覚えておいてくださいね。

ちなみに、英語の「crowd(群衆)」を使ったビジネス用語には、この他に「クラウドファンディング」があります。

クラウドソーシングの代表的な例としては、日本最大級のクラウドソーシング仕事依頼サイト「Lancers(ランサーズ)」や「クラウドワークス」が挙げられます。

クラウドソーシングの登場により、時間と場所にとらわれない、新しい働き方が普及しました。

クラウドソーシング

ビジネスモデルの概要物品やサービスを調達したい企業と、それを提供できる個人を仲介するサービス
不特定多数の群衆(クラウド)と調達(ソーシング)を組み合わせた造語
ポイント以前の仕事の外注は他の企業への外注(アウトソーシング)が大半だったが、クラウドソーシングの出現によって、企業から個人への委託が爆発的に増えた。

参照:Lancersホームーページ:2024年10月時点
https://www.lancers.jp/

参照:クラウドワークスホームーページ:2024年10月時点
https://crowdworks.jp/

社会課題解決に挑むボランティア版クラウドソーシング:「ピリカ」と「タカノメ」

次に、社会課題解決のひとつの例として、「不特定多数のみんなで力を合わせて、社会課題解決を実現しているサービス」を紹介します。

これはボランティア版クラウドソーシングとも言えるかもしれませんが、株式会社ピリカが提供する二つのサービス、ごみ拾いSNS「ピリカ」と、ごみ分布調査サービス「タカノメ」です。

ピリカは、ごみ拾いを楽しく続けやすくするためのSNSアプリです。

ごみ拾いの記録を発信し、ユーザー間でコメントを送り合うことができます。

知らない人から「ありがとう」のコメントをもらえることでモチベーションが高められ、自主的にごみ拾いを行う仕組みになっています。

また、どこにどんなごみがどれだけあるかもデータ化しています。

さらに、ピリカの自治体版や企業・団体版も提供しています。

タカノメは、路上に散乱したごみの分布や深刻さを、調査、可視化するサービスです。

スマホ用の専門アプリで路面の動画を撮影し、動画データから人工知能を使った画像解析技術でごみの種類や数量を読み取り計測し、地図データ上に可視化します。

車両を使って広域を調査する「タカノメ自動車版」と、特定エリアに絞って詳細を調査する「タカノメ徒歩版」があります。

ごみの多い場所や傾向を把握することで、地域の美化活動の効率化、効果測定などが可能になり、現状把握・効果測定・改善提案を行います。

データを活用して、自治体に喫煙場所などの提案もしています。

ごみ拾いSNS「ピリカ」(ピリカ)の概要

事例の概要ごみ拾いの記録を発信し、ユーザー間でコメントを送り合うことができる
知らない人から「ありがとう」のコメントをもらえることで、自主的にごみ拾いを行う仕組みになっている
ポイント・データを集める投稿者は、不特定多数の人や他企業の社員
・データを活用する自治体や、社会貢献活動の一環としてアピールできる企業から収益を得ている

ごみ分布調査サービス「タカノメ」(ピリカ)の概要

事例の概要路上に散乱したごみの分布や深刻さを、調査、可視化するサービス
車両を使って広域を調査する「タカノメ自動車版」と、特定エリアに絞って詳細を調査する「タカノメ徒歩版」がある
ポイント・データを集めるのは、自治体や企業が保有する車両など
・自治体の清掃ルートの最適化や、環境問題への取組みをアピールできる企業などから収益を得ている

参照:ピリカ ホームーページ:2024年10月時点
https://corp.pirika.org/service/pirika/

参照:タカノメ ホームーページ:2024年10月時点
https://corp.pirika.org/service/takanome/

不特定多数の力でインフラ老朽化の課題に挑む「TEKKON」

同じようなサービスにWhole Earth Foundationの「TEKKON」というサービスがあります。

これは、インフラ老朽化という課題を、不特定多数の方の投稿によって解決しようとするアプリです。

アプリ利用者が町中の電柱やマンホールを撮影して投稿すると、ポイントが付与されます。


獲得したポイントはトークン(暗号通貨)やLINE Payに交換することができます。

データは電力会社などに提供し、インフラ管理に活用されています。ガードレール、信号機、道路の陥没などの機能も追加されました。

この「TEKKON」でマンホールなどの写真の投稿をする人たちは、暗号資産やLINE Payを得ることができると言っても、雇用関係があるわけではないですし、業務委託契約を交わしているわけでもありません。

インフラ老朽化という社会課題解決への意識とゲーム感覚で参加して、結果として、全体では大きな価値を生み出しています。

「TEKKON」(Whole Earth Foundation)の概要

事例の概要インフラ老朽化という課題を、不特定多数の方の投稿によって解決しようとするアプリ
町中の電柱やマンホールを撮影して投稿すると暗号資産やLINE Payを得ることができる
ポイント・データを集める投稿者は、直接雇用でも業務委託でもない不特定多数の人
・データを電力会社などに提供している

参照:TEKKON ホームーページ:2024年10月時点
https://lp.tekkon.com/

AIと有志が協力して実現する「みんなで翻刻」で過去から学ぶ未来の防災

最後にご紹介するのは「みんなで翻刻」というサービスです。

古文書の文字を現代の活字に直し、データとして扱いやすくする翻刻という作業は、これまでは少数の専門家が地道に行うしかなく、江戸時代以前の古文書の多くが手つかずで残っていました。

「みんなで翻刻」は、収益を得ているサービスではありませんが、AIのサポートを受けながら、古文書の崩し字の解読を不特定多数の有志が協力して行うプロジェクトです。

地震や洪水など、過去の自然災害を記録した古文書は、現在の防災にとっても大きな意義を持ちます。

「みんなで翻刻」の概要

事例の概要多数の人々が協力して江戸時代以前の史料の翻刻に参加することで、
歴史資料の解読を一挙に推し進めようというプロジェクト
ポイント・翻刻をするのは、古文書に関心のある不特定多数の人
・AIが、翻刻のサポートを行う

参照:みんなで翻刻 ホームーページ:2024年10月時点
https://honkoku.org/

自分ならではの視点で新たな価値を創造

デジタルによる変化は、私たちの身近なところで起きています。

新たな収益につながる既存ビジネスの付加価値向上や、新しいビジネスの発想は、そのような身近な事例がヒントになると、私は考えています。


皆さんも、今回ご紹介した事例を参考に、自分ならではの課題意識や観点から、新たな価値を生み出す事業や社会課題を解決する事業プランを考えてみませんか。

今回学んでほしいポイント

  • 「デジタル技術やAIによって可能になったこと」の具体例として、デジタル化社会における多様な働き方について考える
  • ギグワーカーやスポットワーカー、クラウドソーシング、その他の多様な働き方や新たな価値の創出の事例を知る
  • 事例をヒントに、自分ならではの視点での新たな価値を創造について考える

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この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。