なぜDXビジネスを勉強すべきなのか/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.5

なぜDXビジネスを勉強すべきなのか

私は、すべてのビジネスパーソンとこれから社会に出る学生の皆さまが、DXビジネスを勉強するべきだと考えています。

今こそ、日本流のデジタルによるビジネス変革を起こす好機だと思っているからです。

これまで3回にわたり身近なスポーツを例に取って、最新技術の活用やビジネスモデルとの関係について書いてきましたが、ここで改めて、なぜDXビジネスを勉強すべきなのか、その理由について、掘り下げてみたいと思います。

Dは追いついた!Xは?!

では、最新のDX白書(DX動向2024)などから、日本のDXの現状について見てみましょう。

まずは、DXの成果の日米比較について見てみます。

表を見るとわかるように、デジタル化とその業務改善にあたる部分は、実はすでに2022年度の時点でアメリカに追いついていました。

日本でも、デジタル化やデジタルによる業務効率化には、相当な成果が上がっていると言えます。

さて、デジタルによる変革はどうでしょうか?

DXによるサービス創出や顧客起点の価値創出といった変革の部分は、アメリカに大きく差をつけられたままです。

日本人は真面目であるが故、業務改善はしっかり行うけれども、変革はまだこれからというのが現状です。

日本の「デジタル赤字」

昨今、デジタル赤字が問題になっています。

デジタル赤字とは、
・「コンピュータサービス」クラウドサービス、ウェブ会議システム利用料等など
・「著作権等利用料」OSやアプリのライセンス料など
・「専門・経営コンサルティングサービス」インターネット広告スペース利用料等も含む
などのデジタル分野の赤字を指します。

2023年度のデジタル赤字の額は、約5.5兆円。

インバウンド収支の黒字額3.6兆円よりも大きいものです。

日本はデジタル化が進んだ分、プラットフォーマーへの支払いも大きく増えたと言えます。

海外の生成AIなどのサービスを利用して業務改善だけを行うのでは、デジタル赤字は膨らむ一方だと思います。

デジタル赤字の現状は、
三菱総合研究所の
・デジタル赤字拡大は悪いことなのか?目指すべきは「日本の強み」と「デジタル」の融合
にわかりやすく書いてありますので、是非参照してみてください。

参照:三菱総合研究所 デジタル赤字拡大は悪いことなのか?目指すべきは「日本の強み」と「デジタル」の融合:2024年10月時点

日本ならではのDXビジネスを実現している3つの事例

さて、皆さんはDX・デジタルの変革について、どのようなイメージをお持ちですか?
GAFAMに代表される巨大プラットフォーム企業やOpenAI、Tesla、 NVIDIAなどを思い浮かべる方も多いかもしれません。

私は、日本の企業すべてが、これらの巨大企業を目指すべきだというふうには思いません。また、デジタル赤字を解消すべきだとも思いません。

前項で紹介した三菱総合研究所のレポートにも書かれていますが、デジタルを活用した日本ならではのビジネスで稼ぐべきだと思っているからです。

そこで、日本ならではのDXビジネスを実現している3つの事例を紹介したいと思います。

住友生命の「Vitality」

最初にご紹介するのは、住友生命の「Vitality」です。

Vitality(住友生命)の概要

事例の概要「健康増進」を応援し、リスクを「減らす」サポートをする新しい保険
健康チェックや運動による獲得ポイントに応じて保険料が毎年変動
ポイント・顧客は健康増進活動を楽しみながら行い、病気のリスクを自ら軽減する!
・健康増進活動をポイント化し、それにより保険料を安くすることもできる!
・通院等が減れば、保険会社の支払いリスクも減る!

このサービスの特長をご存知の方も多いかもしれませんが、改めて説明させてください。
これまでの生命保険は、ケガや病気などのリスクに備えるものでした。

しかし、このVitalityは、契約者の方に健康を維持してもらい、リスクそのものを減らそうという発想の転換がポイントだと思います。

Vitalityの契約者は、アプリを通じて、健康に良い行動を記録して、ポイントを獲得できます。

そのポイントによって保険料が安くなるので、契約者は健康になり、保険会社は支払う保険金が減り、世の中の健康増進も図られる。

まさに三方良しを、デジタルの力で実現しているサービスです。

参照:住友生命「Vitality」ホームーページ:2024年10月時点

GMS(Global Mobility Service)の事例

次に、GMS(Global Mobility Service)という会社が提供している自動車ローンサービスをご紹介します。

GMS(Global Mobility Service)事例の概要

事例の概要クルマに利用停止可能な装置を装着
支払いが滞ったらIoT技術で遠隔利用停止
ポイント・開拓不能と思われていた、与信に通らない顧客層の新たな市場を東南アジアで開拓!(ローンを組めなかった方もクルマを購入できる!)
・利用者は購入したクルマを使って商売を行えるため、顧客の収入安定化にも寄与
・「クルマが使えなければ困る」という利用者心理により高い入金率を実現!

このサービスは、クルマに利用停止可能な装置を装着。支払いが滞ったらIoT技術で遠隔利用停止するというものです。

この話をすると、「利用停止しちゃうの?」 「厳しいなぁ」という反応があることが多いのですが、このビジネスの本質は別のところにあります。

東南アジアで成功を収めたこのサービスのターゲットは、クルマを買いたくてもローンの与信が通らなかった低所得の顧客層です。

例えばフィリピンでは、顧客がこのサービスを利用することにより、三輪商用タクシーの電動車両を購入し、仕事で収入を得ます。

大切な収入源なので、ローン代金は最優先で支払います。収入があるので、支払い能力もつきます。

電動車両を購入するので、大気汚染などからの環境保護にも寄与しているんです。

ところで、みなさん、どのくらいのローンの貸倒れがあると思いますか?

みなさんも是非、想像してみて下さい。

実は、何と1%程度の貸倒れしかないということなんです。

これは、ローンの99%は回収できているということです。しかも、これまではローンの審査が通らなかった低所得者層ですので、驚くべき数字です。

このサービスを提供しているGMSは、「日本スタートアップ大賞2024」で、国土交通大臣賞も受賞しました。

参照:最先端FinTechとIoTによる 真に必要とされる社会創造に向けて:2024年10月時点
参照:日本スタートアップ大賞2024:2024年10月時点

三越伊勢丹グループの事例

最後に、百貨店の三越伊勢丹グループの事例を紹介します。

三越伊勢丹事例の概要

事例の概要「すべての数字について科学する」というデータ分析の考え方により、グループとしては、2023年度に三越と伊勢丹の統合後の最高益を出し、伊勢丹新宿本店は、バブル期を超える売り上げも記録
ポイント「マスからスタートして、個客へ」「高感度上質戦略」などの独自の戦略を、徹底したデータ分析により実現している。

三越伊勢丹はご存知のとおり、究極のリアル接客ビジネスとも言えますが、
「すべての数字について科学する」というデータ分析の考え方により、
グループとしては、三越と伊勢丹の統合後の最高益を出していますし、伊勢丹新宿本店は、バブル期を超える売り上げも記録しています。

インバウンド需要により、小売業の各社は軒並み高業績を残していますが、三越伊勢丹の神髄はこれらの徹底したデータ分析とマーケティング戦略にあると言えます。

三越伊勢丹の好業績の秘訣の理由に挙げられるのは、以下の二つが代表例です。

・「マスからスタートして、個客へ」
 最初の来店時はいわゆるマスユーザーだが、アプリや独自のエムアイカードなどの接点を活かして個客になってもらい、データに基づいた個々への販売戦略を策定
・「高感度上質戦略」
 顧客がワクワクする、ちょっと上質な特別感のある消費へのニーズを満たす戦略
 百貨店の存在意義、差別化ポイントとして、戦略の核となっている

一時期はスーパーなどの小売店との激しい競争に巻き込まれて、その存在意義さえ問われていた百貨店が、自分たちの強みを見つめ直し、データを基にしたマーケティング戦略により、見事な復活を遂げていることに、私は注目しています。

こだわりの消費の拡大と上質な顧客の増加により、競争の激しいレッドオーシャンではなく、競争のないブルーオーシャンを目指しているのです。

3つの事例に共通する変革のポイント

紹介した3つの事例に共通していることは、
・ビジネス知識をベースにして
・これまでとは、違った発想をして、
・デジタルを活用して、ビジネスそのものを変革している
ということだと、思います。

事例ビジネス発想活用するデジタル技術活用するビジネスモデル等
Vitality (住友生命)リスクに備える保険から、リスクを減らす保険への発想転換・アプリケーション
・IoT
・データ分析
・ナッジ理論
・ゲーミフィケーション
・サブスクリプション
・O2O (Online to Offline)
ほか
GMSサブスクリプションモデルの利用停止を、IoT技術により、ローンによる自動車販売に適用したBOPモデル・IoT
・遠隔操作
・データ分析
・BOPモデル
(Base of Economic Pyramid)
・サブスクリプション
・レベニューシェア
・フィンテック
ほか
三越伊勢丹徹底したデータ分析による個客化と百貨店の強みを生かした差別化戦略・アプリケーション
・データ分析
・セグメントマーケティング
・One to Oneマーケティング
・カスタマーロイヤルティモデル
・メンバーシップロックイン
・ブルーオーシャン戦略
ほか

デジタルによる効率化を進める企業は多くなっています。
しかし、デジタルには、それに加えて、
・これまでは出来なかったことを可能にする
・これまでよりも、高度なことが出来るようになる
という力もあります。

「ビジネス知識をベースにして、デジタルの力により、新規ビジネス創出や社会課題解決を目指す」
すべてのビジネスパーソンが、そのような方向を是非目指してほしいと、私は期待しています。

今回学んでほしいポイント

  • 日本のDXの現状を知る(デジタル化と業務効率化はOK、デジタルによる変革は遅れている)
  • 日本ならではのDXビジネスを実現している事例を知る
  • 「ビジネス知識をベースにして、デジタルの力により、新規ビジネス創出や社会課題解決を目指す」ことの大切さを知る

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この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。