
DXビジネス用語を実務で生かすために
「DXビジネス検定を受けてみたが、用語をどう生かせばよいか分からない」「実際のビジネスにどう役立てればいいのか」そのような声を聞くようになりました。
その通り、デジタル用語やビジネス用語を“覚えるだけ”では「本当にビジネスで使える知識」にはなりません。
このコラムでは、成功している企業のデジタル活用事例を、DXビジネス検定のキーワードやカテゴリと照らし合わせながら読み解き、解説していきます。

参照:DXビジネス検定™シラバス・例題・学習方法 https://www.nextet.net/kentei/dxbiz/syllabus.html
目指すのは、「用語の理解」ではなく、「ビジネス構造の理解」。最終的には、「自分や自社のビジネスにどう応用できるか」を考えることです。
たとえば、「OMO(Online Merges with Offline)」という用語。デジタルとリアルを融合した販売戦略ですが、それがカインズ(ホームセンター)ではどう活かされ、顧客体験をどう変えているのか。あるいは、「C2Cプラットフォーム」という仕組みがminne(手作り小物の販売プラットフォーム)の成功にどう組み込まれているのか。単なる用語ではなく、そのビジネス構造を理解することで、【ビジネスへのデジタル活用】の本質が見えます。
重要なのは、各用語の理解で終わらせず、「なぜこのビジネス構造で成功しているのか?」と問い続けることです。
たとえば、ある企業が「AIによるレコメンド機能で売上アップ!」と言ったとき、それは本当にAIの力だけで実現したものなのでしょうか? レコメンドの精度はデータの蓄積とデータを入力しやすいUI設計の工夫によるものであり、それを可能にしているのはデジタルを前提とした業務の流れ、顧客との接点(スマホやPCサイト、メール、メッセージなど)の統合設計など、複合的な仕組みの上に成り立っています。これがビジネス構造です。
このコラムでは、個別のビジネス用語、デジタル用語ではなく、「ビジネス構造」に注目します。
UX、CRM、マッチング、レコメンド、API、SPA、D2C、サブスクリプション。こうした用語を「切り口」としながら、なぜその用語の組み合わせが選ばれたのか、どのように顧客体験や収益性を支えているのか、そして自分と自分の会社でも応用できる視点は何かを考えられるようにします。

メルカリのビジネス構造
たとえば、代表的な事例としてメルカリについて考えてみましょう。メルカリは、誰もが簡単に出品、購入を行えるように「UX設計」がされていて、出品から販売、発送、決済、評価までが一気通貫でつながった「C2C取引」と「プラットフォーム」を融合させた「エコシステム」を構築しています。それだけでなく、「レコメンデーション機能」や「リターゲティング広告」などを活用した検索精度と販促の最適化、本人確認による取引の信頼性確保といった、多層的な仕組みがその背後にあります。また、「Fintech」領域での展開としてメルペイを提供し、決済体験も一体化。こうした複合的なビジネス構造により、メルカリは単なるフリマアプリではなく、多くの人に使われる生活インフラへと進化しています。

食べログの双方向プラットフォーム構造
もう一つの事例として、飲食店検索・予約サービスの食べログを挙げてみます。食べログは、使いやすい「UX」を通じて、ユーザーと店舗をつなぐ「プラットフォーム型」ビジネスを確立しました。ユーザーには、「レコメンデーション」機能や「API」を活用した検索体験を提供し、空席情報やレビューを通じて高精度な店舗マッチングを実現しています。

一方、店舗側には、予約台帳機能やモバイルオーダー機能、求人機能を提供しています。また、「フリーミアム」モデルを採用したプレミアム会員制度によりマネタイズを確立し、ユーザー体験と収益性を両立させています。
こうした構造により、食べログは消費者の意思決定支援と飲食店の店舗マネジメント支援の両立を果たす、「エコシステム型」DXモデルとして成功しているのです。
まとめ~ビジネス構造を読み解く~
企業のデジタル活用は日々進化し、その背後にあるビジネス設計思想も高度化しています。しかし、それを「用語を理解した」で終わらせては意味がありません。この連載を通じて、「あの会社がすごい」ではなく、「あの会社の仕組みはどうなっているのか?」「自分ならどう設計するか?」と問い直すクセをつけていただきたいと思います。
DXビジネス検定を単なる「資格のための勉強」で終わらせない。「ビジネスを動かす知識」として生かすために、実在する企業の成功例を、ビジネス構造という視点から一緒に読み解いていきましょう。
次回までの宿題
次回は「DXビジネス検定公式テキスト」の11章(「デジタル集客・マッチング・マーケットプレイス」)の事例として、 タイミーを取り上げます。
タイミーはどのようなビジネスなのか、どのようなデジタル技術を使っているのかを解説します。
皆さんもぜひ次回までに考えてみてください。
<vol.2に続く>

DXビジネスアンバサダー
岸 晶子
きし あきこ
都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てが一段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける。