デジタル時代ならではの人財発掘/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.13

デジタル時代ならではの人財発掘

先日、米津玄師さんの東京ドームツアーに行きました。彼自身、初の東京ドーム公演とのことでした。今回のコラムは米津玄師のツアーをきっかけに感じた、デジタル時代ならではの人財発掘について考えたいと思います。  

米津玄師さんの東京ドーム公演「米津玄師 2025 TOUR / JUNK」に参加しました

米津玄師さんの楽曲は耳にされているとは思いますが、ご本人はテレビで見ることも少なく、ミステリアスだという印象を持っている人も多いかもしれません。ただ彼のコメントをいくつか見聞きしてきた私には、一つ一つの言葉を大事にして、素直な気持ちを語ってくれるとても誠実な若者だと感じます。

敢えてテレビなどの露出を控えてミステリアスさを演出する有名人の方もいると思いますが、彼はテレビに出たくないと思っているわけでなく、単にテレビなどは向いていないと思っているようだけのようです。その理由はライブの中で語ってくれた彼の話の中にあるように感じました。

ニコニコ動画やボーカロイドとの出会い

徳島県で育った彼は、BUMP OF CHICKENなどに憧れて音楽を始めて、高校生の時にバンドを組んだそうですが、彼自身しっくり来なくて、一人でやる方が楽だと思い、バンド活動は続かなかったといいます。

それでも、自分の音楽を多くの人に聞いて欲しいと思い続けた彼が、自分が作る楽曲を多くの人に聞いて欲しいという思いを実現する場所として選んだのが、ニコニコ動画でした。「観客はいつもパソコンの向こう側で、パソコンの向こう側からの反応が嬉しかった」と語っていました。当時は自分自身で作った曲をアップしていた人はほとんどいなかったそうなので、今では普通となっている、ネットでの音楽配信の草分けと言えるかもしれません。

その後、ボーカロイドと出会い、ハチという名前で自身の曲をボーカロイドに歌わせます。これらのボーカロイドの楽曲により、ハチは知名度を上げ多くのファンを獲得していき、メジャーデビューを経て、現在の米津玄師さんの活躍につながっていきます。

▲ハチ名義で発表された楽曲「ドーナツホール」


「東京ドームは自分にとってファンタジーだ」とも言っていました。「ニコニコ動画に投稿していた時代から、気が付いたらここに立っていたという感じだ」と。地元の徳島県で音楽アーティストのライブに出かける機会がなかった彼にとっては、ライブという空間に馴染みがなく、画面の向こうにいる動画の視聴者だけが観客だった時代が彼の原点でした。その背景もあって「ニコニコ動画時代から見てくれていた方も何人か来てくれていると思う。そういう人たちともこのような形でもう一度出会えたことは感慨深い」とも語っていました。

デジタル時代ならではの人財発掘がある

以前にこのコラムでも紹介した、ゴジラ-1.0のVFXを担当した若者は、VFX動画の投稿が山崎貴監督の目に留まり、スカウトされたといいます。米津玄師さんもそうですが、デジタル時代だからこそ、これまでは埋もれていたであろう才能を見つけることができる時代になっていると思うのです。 
デジタル時代ならではの人財発掘を実践している例をいくつか見ていきましょう。
これは海外の事例ですが、Kaggle(カグル)という、世界中の機械学習・データサイエンスに携わる約40万人が集まるコミュニティがあります。

これは、企業や政府などとデータ分析のプロであるデータサイエンティストや機械学習エンジニアをつなげるプラットフォームで、企業や政府主催のコンペが行われています。このコンペでの上位ランクの取得回数に応じて称号が授与されます。コンペの実績や称号が就職や転職に有利になるといいます。企業側にとっても、優秀なデータサイエンティストを採用できるチャンスにもなっています。

Kaggle(カグル) 事例の概要

事例の概要世界中の機械学習・データサイエンスに携わる約40万人が集まるコミュニティ
企業や政府などとデータ分析のプロであるデータサイエンティストや機械学習エンジニアをつなげるプラットフォームで、企業や政府主催のコンペが行われている
ポイントコンペに参加したデータサイエンティストや機械学習エンジニアには、コンペでの上位ランクの取得回数に応じて称号が授与され、コンペの実績や称号が就職や転職に有利になるという。

参照:Kaggle(カグル)ホームページ:2025年4月時点
https://www.kaggle.com/

少年ジャンプ(集英社)の人財発掘と育成

国内の事例では、少年ジャンプの漫画家発掘と育成の取組みがあります。
その一つである「ジャンプルーキー!」は、漫画家志望の作者が、誰でも自由にマンガを投稿できるプラットフォームです。
閲覧数上位者はWebやアプリで作品を提供する「少年ジャンプ+」での連載も可能です。
マンガを最後まで読んでもらえた時に表示される広告の広告料は、すべて作家の収入とすることができる仕組みも作っています。マンガで生計を立てることができない作者への金銭的な援助の側面もあります。

さらに、漫画家の卵を育成するための仕組みも作っています。
マンガのアイデア出しや制作の相談に乗ってくれるAI編集者「Comic-Copilot(コミコパ)」です。編集者のノウハウを学習させたChatGPTを使っています。

参照:ジャンプルーキー!ホームページ:2025年4月時点
https://rookie.shonenjump.com/

参照:少年ジャンプ+ホームページ:2025年4月時点
https://shonenjumpplus.com/

参照:Comic-Copilot(コミコパ)ホームページ:2025年4月時点
https://lp.comic-copilot.ai/


人財発掘と共に新たなビジネスも

連載マンガを描くような漫画家の卵とまではいかなくても、自己表現としてマンガを描きたい層は多くいます。そのような人向けに誰でも自由にマンガを投稿できるサイト「マンガノ」があります。
多くの人が気持ちよく投稿できるように、ポジティブなコメントだけを作者に届けるやわらかコメント機能もあります。
マンガノへの投稿者は自身の作品を販売することもでき、広告収入を得ることもできる仕組みになっています。
そしてこのサイトの運営者である集英社とはてなに、その収入の一部が手数料として入る仕組みになっています。未来の漫画家を発掘するだけでなく、より広いマンガ愛好家の表現の場を提供し、手数料を得るというビジネスにしているのです。

参照:マンガノ ホームページ:2025年4月時点
https://manga-no.com/creator

集英社が提供するWebサービスの例

媒体名説明補足
少年ジャンプ+Webやアプリで作品を提供紙発行の制約がなく、作品数も多い。閲覧数やコメントで作品評価が可能
Comic-Copilot(コミコパ)マンガのアイデア出しや制作の相談に乗ってくれるAI編集者編集者のノウハウを生かして、ジャンプルーキーやマンガノに投稿する漫画家の卵の相談に乗ってくれる
ジャンプルーキー!漫画家志望の作者が、誰でも自由にマンガを投稿できるプラットフォーム閲覧数上位者はジャンプ+での連載も可能。マンガを最後まで読んでもらえた時に表示される広告の広告料はすべて作家の収入にすることができる
マンガノ(はてなとの共同運営)誰でも自由にマンガを投稿できる漫画投稿サイトはてなと集英社が運営。自分の漫画を販売することも可能。販売手数料や広告料が運営側の手数料になる。ポジティブなコメントだけを作者に届けるやわらかコメント機能もある

自社が欲しいと考える人財の発掘

このコラムを見て下さっている方の中には、企業の人事担当者の方もいらっしゃると思います。採用・育成・評価の業務効率化のためのDXも進んでいくと思いますが、デジタル時代ならではの人財の発掘も可能な時代です。それぞれの業界や会社の事情に合ったやり方で、企業が欲しい人財を発掘できるような仕組みを考えてみても良いかもしれません。

最後に


米津玄師さんは、東京ドームに足を運んだ私たちに対して、感謝の言葉とともに「今まで生きてきてくれてありがとう!」と叫んでくれました。
私は彼と同じデジタル時代を生きていることを実感し、彼との出会いに感謝した一日でした。

今回学んでほしいポイント

  • デジタル時代だからこそ発掘できる人財について考える
  • 自社の事情に合った、人財発掘の仕組みを考えてみる
  • 人財発掘と共に、それらの場を活用した新たなビジネスを考えてみる
この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。

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