DX成功と失敗の本質
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第3回:企業のビジネスバリューごとにDXの取組みは千差万別
[特別寄稿]連載/DXの成功と失敗の本質
第3回:企業のビジネスバリューごとにDXの取組みは千差万別
2022年1月より「経済産業新報」にて連載されている住友生命の岸和良氏(理事・デジタルオフィサー)の執筆記事「DXの成功と失敗の本質」(全6回)を特別寄稿いただきました。
※「経済産業新報」は、株式会社経済産業新報社が月に2回発行する、わが国の産業界の司令塔ともいうべき経済産業省の政策を報道し続けている、唯一の専門新聞です。
筆者紹介:岸 和良 氏
住友生命保険相互会社 理事 デジタルオフィサー
生命保険基幹システムの開発・保守、システム企画、システム統合プロジェクト、生命保険の代理店新規拡大やシステム標準化などを担当後、DX型健康増進型保険Vitalityの開発責任者を担当。現在はデジタルオフィサーとして、デジタル戦略の立案・社内人材教育・対外のイノベーティブ人材育成活動などを行っている。
第3回:企業のビジネスバリューごとにDXの取組みは千差万別
住友生命保険では現在、2018年から提供しているDX型健康増進保険「Vitality」をベースとしたデジタル案件を推進し、これを担うDX企画・推進人材の育成に注力している。
筆者は5年前から南アフリカ共和国Discovery社との共同事業であるVitalityプロジェクトに携わり、2021年よりデジタルオフィサー(デジタル全般の推進責任者)としてDX推進やDX人材育成を実施中である。
前回の第2回連載ではDXの定義の議論は不毛であり、DXを5段階のレベルで分けることで関係者の共通認識を深めることができることを説明した。
今回は、DXには唯一無二はなく「各企業のビジネスバリューごとにDXの取組みは異なる」ことを説明したい。
DXという流行り言葉
DXという言葉が話題になりはじめたのは、2018年頃であったと思う。きっかけは経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(*1)」である。その前から、情報感度の高い人はDXという言葉を知っていたが、日本の多くの企業ではDXという言葉は耳慣れないものであった。
住友生命でも、Vitalityを作り始めた2016年初頭にはDXという言葉は一般的でなく、そのような保険(DX型商品)を開発している自覚はなかった。あくまで歩いたり、運動したり、健康に良い活動をするとポイントが貯まり、ご褒美がもらえる健康増進サービス付保険を開発していたということだ。
しかし、Vitalityをローンチした2018年頃からだったか、DXに関するWeb記事が多くなり、その後は加速度的に増えていった。この流れの大きなきっかけになったのが「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」であることは間違いない。
SNSやネット記事でいろいろな意見飛び交ったからだ。
「2025年の崖」はそれまで有識者の特別なものであった「DX」という言葉を一般の人にも近しいものにし、それから多くのDXに関する書籍が出版された。しかし、これから現場で混乱が始まった。DXの説明がいろいろあり過ぎて、結局何なのかが分からない状態が多くの企業や団体の担当者の頭の中で続いている。
(*1)経済産業省発表の資料:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~はこちらからご覧いただけます。
「DXという言葉」を使うと上手くいかない
筆者は「DXという言葉」を使うと上手くいかないと思っている。なぜならDXの定義をしっかり考えないで使う都合の良い言葉だからだ。DXの本質は「データ、デジタル、ビジネスの仕掛けを使った経営改善・改革」であり、経営上の改善や改革が先にある。その実現手段として「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」があるというのが正しい構造である。
DXは企業の経営目的とその手段としての「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」で成り立ち、その具体策は企業のビジネスバリュー(事業上の価値)によって異なる。これは各社毎に千差万別であるゆえ、万能な唯一無二のDXはない。
自動車保険のビジネスバリューとDX
たとえば、保険(自動車保険)で考えてみよう。もともと自動車保険は販売店(ディーラー)や町の修理店(民間車検場)などで販売していた。今もこの販売チャネルがメインであるA社がある。そこにネットで自動車保険を販売するネット損保B社が現れた。
このA社とB社のバリューチェーンは異なる。A社は、「良い保険商品」→「全国の多くの販売チャネル」→「丁寧で新設で迅速なアフターサービス」、「早く簡単な支払査定・手続き」などがビジネスバリューを構成するといえるだろう。
<A社のビジネスバリュー>
良い保険商品→全国の多くの販売チャネル |
また、後者であれば、「良い保険商品、安い保険料」→「ネット検索で上位に出てくる」→「コンテンツが丁寧、訴求力がある」→「登録しやすい申込画面、素早い加入手続き」→「丁寧で新設で迅速なアフターサービス」、「早く簡単な支払査定・手続き」などになる。
<B社のビジネスバリュー>
良い保険商品・安い保険料→ネット検索で上位に出てくる |
この場合、A社とB社ではDXの在り方も異なる。A社は全国の販売チャネルで自動車保険を販売する「人の価値」がバリューである。したがって、この人の価値にフォーカスして、デジタル化し、新しい価値を産みだす方向でDXを考えることが必要だ。
また、A社には、ネット損保になるという選択肢もある。この場合、既存チャネルとの関係やネットだけで今の売上を維持できるかの経営判断はあるものの、ネット損保に移行する場合のDXは、ディーラー経由販売とは異なるものになるだろう。
一方、B 社のネット損保は基本、人が介在せずに、ネットだけで自動車保険を販売する。だから、DXはデータやデジタルを使い顧客価値を生み出す方向になるだろう。使いやすいシステム、レコメンド機能、人が介在しない分人を代替するバーチャルコンテンツなどが必要だ。
あるいは、デジタルでの保険販売に、人の介在を絡め、Zoomなどで人が遠隔接客し、販売のクロージングを担当し、「加入をためらう、または説明しないと分からない客」に最後のひと押しをする方向性もあるだろう。
このように、同じ自動車保険ビジネスでも、企業の経営方針、使命感(パーパス、企業の在り方)、商材、チャネル、サービスなどの価値連鎖である「バリューチェーン」が異なれば、手段である「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」も異なってくる。したがってDXをやろうと言っても誰も何をするのかピンとこない。
何をやるかでDXは千差万別であり、これがDXの本質である。
[第3回 了]
連載第4回はこちらからどうぞ。
<お知らせ>
本連載の著者、岸様が執筆された
「DX人材の育て方 ~ビジネス発想を持った上流エンジニアを養成する~」が
2022年4月15日に株式会社翔泳社から刊行されました。
著者:岸 和良氏, 杉山 辰彦氏, 稲留 隆之氏, 中川 邦昭氏, 辻本 憲一郎氏共著
【翔泳社Webページ】はこちら 【Amazonページ】はこちら
連載記事その他の回はこちらかどうぞ
連載/DXの成功と失敗の本質
■第1回:第1回:DXは「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」
■第2回:DXの定義の議論は不毛、DX5段階のレベル分け
■第4回:DXの手段と目的を正しく問う
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